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入試の不備を意識させた東大・京大の地盤沈下

武田徹

武田徹 評論家

 東京大学が2016年度入試から現在の「後期日程(定員100人)」に代えて推薦入試を導入するという。国立大学でも既に82校中76校が導入済みの推薦入試なので「東大よ、お前もか」の声も聞かれたが、そこには東大なりの悩みもうかがえる。

 東大は日本の大学ヒエラルキーの頂点に立つが、国際的な大学ランキングでの順位は下がる一方だ。筆者は別件で就任直後の濱田純一・現総長を含む大学理事ら数人と懇談する機会を持ったことがあったが、彼らの東大に対する危機感の強さは印象的だった。

●入試が優秀な学生をふるい落としている。

 最難関大学である東大は、現在の入試制度で最も優秀な入学者を選抜して来たはずだった。それでも国際的な地盤低下があるとしたら、入試制度自体がうまく機能していない可能性がある。優秀な学生を選ぶはずの入試が、逆に優秀な学生をふるい落としているのではないか。おそらくそうした懐疑があり、今までの入試とは異なる選別の回路を作る必要性が意識された。その結果として設けられたのが今回の推薦制度であり、弱小大学が定員充足のために推薦入学制度を設けて他大学に合格する前に受験生を囲い込んでしまおうとするのとは動機が異なるように思う。

 その証拠に一般入試では採れない才能や能力を発掘するための工夫の跡が見られる。まず推薦入試といっても指定校推薦ではない。つまりブランド高校にあらかじめ絞って推薦を得るのではない。偏差値エリートを手堅くまとめて入学させたいわけではないのだ。方法としては高校の校長が推薦できる「一般推薦」だが、推薦条件を見ると「特定の学問分野に対する強い関心」があり、東大で学ぶ積極的な意欲を持つ者という限定が付いている。幅広い教科で優秀な成績を納めるので入試に強い「秀才型」ではなく、特定の分野に強く執着し、能力を発揮する「天才型」を求めており、合格できた場合は大学院の授業も受講できるようにして、その能力を更に延ばしてゆくための受け皿も用意している。

●多様な才能が出会う場所を作るために

 こうした「天才型」学生を受け入れることは。教育研究環境の多様性を確保するためにも必要だ。実は以前に話題になった東大秋季入学案も、「東大から海外の大学への入進学、留学」と「海外大学から東大への入進学と留学」の双方がしやすくなると謳われたが、多彩な経験を有する学生を集める効果も期待されていた。その証拠に、秋学期入学への移行が難しいというのであれば当面、春季入学を維持したうえで4~8月を自主的なフィールドワークやボランティア、国際交流活動にあてる「選択的ギャップターム」を選べるようにするという案が示されていた。学生に均質性ではなく、多様性を求める姿勢は最近の東大の様々な改革案に共通している。

 偏差値で横並びであり、進学校を経て大学まで進んできた経歴においても均質性が高い優秀な学生を集め、一斉に共通の教育を施して世に送り出す教育方法ではもはや世界で通用する才能は輩出できない。それは最先端研究分野で海外の多様な個性の研究者たちと切磋琢磨してきた教員たちが思い知らされた現実だったのかもしれない。多様性を担保することが創造的活動を活発にするうえでいかに重要なのかを彼らは知り、自分たちのキャンパスも多様な個性や経験がぶつかり合い、互いに刺激しあううちに、予想もしなかった成果を上げる場所になればいいと望んだのではないか。

 推薦入学に関しても、東大は各学部それぞれの教員が数時間に及ぶ面接を行って「授業の内外で、幅広く学」んでいるか、ボランティアなど体験活動と入学後にやりたい学問や研究との関連性を問うというのも、いいかたちでキャンパスに多様性を持ち込むための工夫なのだろう。

 ちなみに京大も2016年度入試から推薦やAOなどを柱とする「特色入試」を導入すると発表した。日本のアカデミズムの頂点に位置する両大学が、同じ時期に同じように入試を変えようとしている。それは現状の入試制度がはらむ問題の深刻さを示している。

●偏差値エリートの再生産を超えるために

 たとえばアメリカの教育学者R.M.ドーズは、受験生の経歴や資質など複数の要素を変数化し、解析して優秀な学生を選ぶアルゴリズムを作り出したという。それに比べると東大の入試改革は、

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