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不思議な縁に盛り立てられる市川海老蔵と新歌舞伎座

田中敏恵 文筆家

 御存知の通り、観劇の醍醐味とは、映像作品ではこぼれ落ちてしまうような役者の気配が、ダイレクトに伝わってくることだ。気迫、熱気、色気、殺気、そして役者自身のオーラ……。こと、「役者の気」ということでいうならば、今この人抜きに語ることは出来ないだろう。十一代目 市川海老蔵。現在、歌舞伎座新会場杮落とし公演の第三部『助六由縁江戸桜』において、主役の花川戸助六を演じている。

 当初この役は父、十二代目 市川團十郎が演じるはずだった。近代歌舞伎の宗家である市川家の十八番であり、吉原の遊郭を舞台に、江戸一の色男と兄に吉原花魁の最高位・太夫、そして敵役などが繰り広げる絢爛豪華な舞台は、杮落としの公演にはふさわしい演目である。発表当時の配役も團十郎をはじめ、中村福助、尾上菊五郎、坂東三津五郎、市川左團次と人気と実力を兼ね備えた役者を揃えた贅沢なものだった。しかし、市川團十郎が今年2月帰らぬ人となり、代役として子息である海老蔵が演じることとなったのである。

 と、そんな経緯はほとんどの人が知るところだろう。新歌舞伎座に駆けつけた人たちも、言わずもがなだ。舞台は市川家の象徴である三枡の紋がついた、海老茶の裃をまとった松本幸四郎の口上から始まった。歌舞伎きっての人気演目だ。花魁・揚巻と彼女に執心の意休とのやりとりの後、ついに花道に海老蔵の演じる助六が現れる。その時、待望の主役の登場に観客の目は輝き、人々の役者へ向けられた集中力と、なにより海老蔵の持っている“華”で場の空気がガラッと変わった。

 助六の登場は、

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