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厳罰化で少年事件が解決するのか――少年法改正問題に思う

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

 少年法が改正されようとしています。ひとことで言えば、厳罰化の方向でです。

 (1)少年審判に検察官が立ち会うことができる事件の範囲を、長期3年を超える罪に拡大する。 

 (2)罪を犯した少年に対する不定期刑の上限を、長期は10年から15年に、短期は5年から10年に引き上げる

 (3)無期懲役を減刑して有期刑を言い渡す場合の上限を15年から20年に引き上げる

などが主な内容です。

 厳罰化は被害者遺族の声が反映された結果とも言えます。
 少年事件に詳しい弁護士によると、(1)は、検察官が立ち会うことができる事件の対象が現在の殺人や強盗致死などごく限られた犯罪から、けんかなどを含む傷害、万引きなどの窃盗、かつあげなどの恐喝などにも広がる内容だそうです。ほとんどの事件がカバーされることになりそうです。一方で、国はこの検察官関与と引き換えに、これまで弁護士会が要求していた「国選付添人制度」(少年に国費で弁護士をつける制度)の対象事件の拡大も、今回の改正案に盛り込んでいます。日本弁護士連合会は「国選付添人制度」の導入を歓迎しています。

 国選付添人制度の導入はいいことではありますし、また、少年による凶悪事件で子どもや家族を失った遺族らの悲しみ、苦しみ、悔しさについては、その思いを考えると、心は痛みますし、どんな言葉も発することはできません。ですが、厳罰化が果たして本当にいいことなのか、私は疑問に感じます。

 罪を犯した少年はその時点では加害者ですが、罪を犯すまでに虐待やいじめ、暴力などさまざまな被害を受け、その傷を背負ってきた被害者だとも言えます。

 少年法の第1条はこのように書かれています。

 この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

 さらに、第22条には、「審判は懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない」とあります。

 子どもの育ちを保障するのが少年法であり、少年の立ち直りのためにあるのが少年審判といえます。子どもは変わる力を持っているということを前提に、よりよい環境や働きかけで更生をはかろうというものです。

 少年法はすでに2000年に厳罰化の方向で改正されています。その背景には、1997年に神戸市で起こった小学生連続殺傷事件(いわゆる酒鬼薔薇事件)の影響があるといわれています。2000年の改正を受け入れることを、有名な法学者だった故団藤重光さんは「世紀の恥辱」と表現したといいます。今回の改正は2000年改正の厳罰化をさらに進めるもので、少年法の精神を根本から覆す方向のものだという意見は少なくありません。

 先日、東京弁護士会が主催する少年法改正問題を考える集会に出かけてきました。長年少年事件にかかわってきた弁護士や元裁判官、学者などが熱心に話をしてくれました。

 裁判官として10年少年事件を扱い、その後弁護士になってからも24年間、約400人の子どもたちと向き合い続けてきた多田元弁護士は、現在の少年司法の問題をいくつかあげてくれました。

 (1)処遇決定のプロセスは要保護性を中心にすべきなのに、非行性を重視して処遇が決められている。家庭裁判所のケースワーク機能が衰退し、非行事実の偏重、結果の重大性を問う傾向が強くなっている

 (2)非行事実の審理で、教育の必要な少年に対する「推定無罪」の原則が軽視されている。少年の未熟さを理解していないと、自白の信用性も理解できない。少年は取り調べの段階で容易に誘導されやすく、また、審判で改めて警察や検察で話したこととは違うことを話そうとしても、その場に検察官が立ち会うことになれば、その声は押さえ込まれていく

 (3)重大事件は刑事裁判にかける傾向が強くなっている。つまり、非行の科学的な分析はあまりされず、情緒的な量刑を下す傾向が強い

 (4)被害者と少年との関係でいえば、非公開の少年審判では被害者が置き去りになっている。被害者にとっては少年のやったことはあの世に行っても許せないと思うのは、当然だが、いまのシステムでは被害者への支援がなく、コーディネーターがいない状況で、加害者との対立だけが際立っている

 多田弁護士は「死刑と精神医療」(批評社)の中で、神戸の小学生連続殺傷事件の起こった1997年に全国の家庭裁判所に殺人罪で送致された少年は45人で、戦後のピークである1961年の396人の約11%だと書いています。「わが国においては、

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