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「スーパー台風」襲来は日本への警告だ

前田史郎 朝日新聞論説副主幹(大阪駐在)

 最大風速60メートル以上という史上まれにみる強い勢力をもつ台風がフィリピンを襲った。死者・行方不明者の数は6千人以上にのぼる。地球温暖化で海面水温が上がり、台風は勢力を増していく。日本近海でも近年、海水の温度が平年より上がる傾向にある。「スーパー台風」の発生はひとごとではない。

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 11月7日朝、気象庁の4階にあるアジア太平洋気象防災センターは色めき立った。3日前にトラック諸島近海で発生した台風30号が、異常な発達を見せていた。
 6日午前0時 980ヘクトパスカル
 7日午前0時 920ヘクトパスカル
 24時間で約60ヘクトパスカルも下がっている。まれに見る急発達だった。
 「これはまずいな」。モニター画面の雲画像を見ながら、藤田司所長は言った。中心部の気圧が低いほど周辺との気圧差が大きく、外へ渦状に吹き出す風が強まる。このまま発達した状態でフィリピンに達しそうだ。フィリピンのインフラは日本ほど強靱ではない。外国とはいえ、日本人も多い国だ。
 3階にある「現業室」での解析と予測が逐一、4階にも届いた。センターは最大級の警戒が必要と判断、他省庁を含めてメールで注意喚起の連絡を入れた。
 地球上の熱帯低気圧は、海域を6つに分け、拠点となる国が責任をもって観測している。日本の気象庁はフィリピン周辺を含む北西太平洋の観測を担う。熱帯低気圧の発生数がいちばん多い海域だ。
 当初、30号は注目されるほどの強さではなかった。発生直後の中心気圧は980ヘクトパスカル程度。熱帯低気圧としてはよくある平凡な数値だ。状況が変わったのは、6日の未明からだった。
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 7日、センターはフィリピン気象局「PAGASA」に、気圧や風速、進路予測などを専用回線を通じて送った。フィリピン側も危険が迫っていると受けとめた。上陸まで約1日。この時期の対応が、被害を軽減できるかどうかを左右する。
 だが翌8日、フィリピンは想像を超える台風禍に見舞われることになる。
 巻き上がる暴風、海水にあらわれる岸壁、泳いで逃げる人々……。とくにレイテ島は、暴風雨と高潮で壊滅的な打撃を受けた。
 避難勧告や事前に危険を知らせる連絡網は十分だったのか。高潮や暴風が予想を上回ったのではないのか。検証すべきことは多い。
 なぜこれだけ急発達したのか。台風は、暖かい海からの水蒸気をエネルギー源とする。しかし、フィリピン周辺の海面水温が例年に比べて高かったわけではない。
 「海水温度以外に、台風を発達させる要因があったとしか考えられない。台風の構造にはなぞが多く、今の予報技術では事前に急発達の可能性までわからない」と藤田所長。
 発達を事前に予測できなくとも、発達後の進路や勢力は予測できる。前日に危険を察知し、数百万人が避難しながら、これほどの被害を出したことは、いかに勢力が想像を超えていたかを物語る。
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 気になるのは近い将来、日本にもこの規模の台風が襲来するのか、という点だ。
 名古屋大学の坪木和久教授は、気象庁気象研究所と共同で、地球温暖化が進んだ場合、21世紀後半に台風の勢力がどうなっていくのかを予測する研究を進めている。
 予想される気温や海水温、気圧などさまざまな数値をコンピューターに入力し、数十年後の天気を出現させる。膨大な計算量になるので、スーパーコンピューターを使い、計算機の中に地球を作り出す。
 その結果、地上風速(1分平均)が67メートルを超す「スーパー台風」(ハワイの米軍合同台風警報センターの定義)が、3つ以上、次々と現れた。その一つは、中心気圧が862ヘクトパスカル、最大風速が84メートル。中心気圧がわずか24時間で57ヘクトパスカルも低下した。
 2070年以後、こうした台風が勢力を保ったまま日本にやってくる可能性がある。
 過去に日本に上陸時に最も発達した台風は、1934年の室戸台風の911,6ヘクトパスカル。次いで1945年の枕崎台風で916,1ヘクトパスカル、61年の第2室戸台風の925ヘクトパスカルだ。
 実験で生まれた台風は、これら甚大な被害を及ぼした台風の勢力を上回る。
 「最初は計算間違いではないかと思った」と坪木教授は言う。
 21世紀後半、西太平洋の海面水温は今より2度ほど高い31~32度になると予測される。この水温を前提としてシミュレーションをした結果、出てきたのがスーパー台風の相次ぐ発生 ・・・続きを読む
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筆者

前田史郎

前田史郎(まえだ・しろう) 朝日新聞論説副主幹(大阪駐在)

朝日新聞論説副主幹(大阪駐在)。1961年生まれ。神戸、広島支局、東京・大阪社会部で事件や行政、核問題、厚生省クラブなどを担当。社会部デスク、教育エディター、大阪・社会部長、同編集局長補佐、論説委員、編集委員を経て15年1月から現職。気象予報士。著書に『核兵器廃絶への道』(共著)。

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