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犯罪急減の正体 犯罪しない若者たち

河合幹雄

 2013年の犯罪状況について、一般刑法犯認知件数は下がり続け、とりわけ殺人は939人と戦後最低記録であったと警察庁が発表した。犯罪の現状を、「診断」しておきたい。一般刑法犯認知件数は、犯罪者の活動ぶりよりも警察のキャパシティーを反映するものであるし、統計の取り方も一定ではなく、2002年をピークとする犯罪激増は、幻であることは既に論じた。問題は、その後の犯罪急減が、これまた統計のトリックなのか本物なのかである。

 これを見破るには、罪種ごとの統計を丁寧に検討する他ない。最初の手がかりは、殺人の数である。様々な理由で統計の取り方が変わっても、殺人は、どの年代でも最重要犯罪である。未遂は変更の余地があるとしても、死者の数を、事故扱いで減らすことはあまり考えにくい。2002年のピークを目差した増加期に殺人被害者数は少しも増加しなかった。これは、犯罪急増は幻であるという私の主張の根拠となってくれた。他方、ここ十年の殺人事件の減少スピードは凄まじい。この観点からは、犯罪急減は本物ということになる。

 ところが、事態は単純ではない。多様な罪種を検討してみると、ここ10年で、大きく増えているものと減っているものがある。さらに、犯行の仕方や検挙人員の年齢層まで見ていくと、実に興味深い。以下、2002年のピーク後の急減を理解することを試みてみよう。なお、逐一検討するスペースがないので、ざっと描写した後で、何点かにまとめてみる。

 凶悪事犯から見ていくと、殺人、強盗、強姦といった強い暴力が伴う事件は大幅減。ところが粗暴犯のくくりでは減っていない。暴行が増えているのである。暴行は傷害にあたらない、つまり怪我させない程度の暴力であり、暴力的な犯罪の中では最も軽微な類である。暴行が増えたのは、これまで見過されていた犯罪がカウントされはじめたという疑いがある。細かく見ていくと、親族間の暴行が激増している。DVと児童虐待である。確かに、以前は見逃されていた現象が事件化した面はあるだろう。しかし、実際に事件が多発しているのも本当のように思われる、つまり半分本当のような状態と推察する。

 殺人によって死亡した人員は10年で3分の2になっているが、内訳が興味深い。殺人の被害者は、男性が多いのが常識であったが、男性の殺人被害者の死亡者数は、10年で半減している。それほど減らなかった女性の被害者数が男性をしのいで多数派となってしまった。また、殺人は、過半数が家族内で発生するものであったが、親子間殺人数は変化なし、配偶者は減少、合わせるとそれほど減っていない。それに対して、最も減ったのが、知人友人間である。知人友人間は、男同士の喧嘩が含まれるが、これが大幅減のようである。

 強姦を見ると、若い世代が激減、特に、10代20代の強姦犯は少ない、凶悪事件だけでなく、全てにおいて、高齢者の犯罪が増えて、少年や、若者の犯罪が減っている。

 暴力的でない罪種については、窃盗が大きく減少し、振り込め詐欺を含む特殊詐欺が大幅増である。窃盗認知件数の総数は、 ・・・続きを読む
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筆者

河合幹雄

河合幹雄(かわい・みきお) 桐蔭横浜大法学部教授(法社会学)

桐蔭横浜大法学部教授。1960年、奈良県生まれ。京都大大学院法学研究科で法社会学専攻、博士後期課程認定修了。京都大法学部助手をへて桐蔭横浜大へ。法務省矯正局における「矯正処遇に関する政策研究会」委員、警察大学校嘱託教官(特別捜査幹部研修教官)。著書に『安全神話崩壊のパラドックス 治安の法社会学』『日本の殺人』『終身刑の死角』。

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