2014年02月14日
思い出すのは、2年近く前。新しいコーチとともに再スタートを切るべく、カナダ・トロントに渡ったばかりの彼と、ショッピングセンターの騒々しいカフェで話をしたときのことだ。
「ブライアンの評価はずいぶん高いね。ユヅルは複数回オリンピックで勝てる、って言ってるよ」
少し前に新コーチのブライアン・オーサーに話を聞いていた筆者は、そんな話題で彼を囃し立てた。
「複数回――ソチと、ピョンチャン? まだ17歳なんだから、ピョンチャンとその次、でも十分行けるね」と。
すると結弦は、ふふん、という感じで笑って、こう答えたのだ。
「もうここまで来たら、ソチも取っちゃいましょうよ! せっかく世界の銅メダルも、もう取ったんですよ。この勢いで、行っちゃいましょうよ!」
なんとなくだが、描いていたのは、ソチの優勝は、高橋大輔。羽生は表彰台でそのひとつかふたつ下の位置に立ち、そこで悔し泣きをするのだ。
たとえば、彼の方が4回転を2回跳び、4回転1回だった高橋に負ける、という展開。その悔しさで、ジャンプだけではダメなんだと気づき、ピョンチャンに向けて素晴らしいパフォーマーになっていけばいいな、と。
ところがソチの時点で、羽生はもう世界で一、二を争う、プログラムコンポーネンツゲッターだ。今回のショートもパトリック・チャン(カナダ)に続いて2番目に高い得点を得(チャン47.18、羽生46.61)、5つの構成点のうち、「パフォーマンス」ではチャンを上回ってしまった。
「ジャンプだけじゃない」なんてことはもうとっくに気づいていて、スケーティングからステップから感情表現から、どんどん磨きをかけていた。ソチで優勝はまだ早いよ、なんて思ってしまったその時のことを、今は謝らなければいけない。羽生結弦の力を、まったくもってはかり切れていなかったな、と。
エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)の残念すぎる負傷棄権から始まり、ジェレミー・アボット(アメリカ)も大きく4回転を転倒し、演技になかなか戻れないシーンがあった。
ブライアン・ジュベール(フランス)が五輪出場4回目にして初めて、ショートプログラムでパーフェクトなジャンプを見せたにもかかわらず、点数ができらないことも切なかった。
さらにはケガの影響が出たのか、高橋大輔の4回転失敗……。
長く男子フィギュアスケートを支えてきた愛すべきベテランたちが、次々と苦しげな顔でアイスバーグを去るなか……若い羽生のきらきらとした成功は、多くの観客の注目を浴びていたのだ。
お目当てがプルシェンコだったお客さんは、ロシア勢がひとりもいなくなってしまった試合後半、
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