メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

[15]困った「フリ」

永尾俊彦 ルポライター

はいあがろうとする漁民を踏み落とす農水省

 2013年12月21日、諫早市内で農水省が期限までに開門しなかったことに対する抗議集会が開かれ、漁民や市民ら約100人が集まった。

 この集会には、確定判決の履行という義務を負っている「債務者」の農水省から九州農政局の吉村馨(よしむら・かおる)局長、同省農村振興局の瀧戸淑章(たきど・としあき)農地資源課長らも出席した。

馬奈木昭雄弁護団長(右)から開門できなかった責任を追及される吉村馨農政局長=2013年12月21日、諫早市内、撮影・筆者拡大馬奈木昭雄弁護団長(右)から開門できなかった責任を追及される吉村馨農政局長=2013年12月21日、諫早市内、撮影・筆者
 「債権者」である漁民の弁護団は、林芳正農水大臣が来て、直接漁民に開門できなかったことを謝罪し、なぜ開門できなかったかを説明するよう事前に求めていた。

 しかし、農林水産行政の最高責任者である林大臣は来ず、代わりに幹部を派遣したことに、まず馬奈木昭雄(まなぎ・あきお)・弁護団長の怒りが炸裂した。

馬奈木団長 大臣は時間的には来られたんだよね?
瀧戸課長 (大臣が)来られたかどうかは承知していません。わたしたちで対応しろという指示でした。
馬奈木団長 裁判所から3年間猶予をいただきながら、なぜ開門できなかったんですか。
吉村局長 開門義務の履行に向けて様々な努力を行って参りました。環境アセスをし、予算措置を講じ、準備工事に着手しようとしましたが、(開門差し止めの仮処分決定が出た2013年の)11月12日に到り……。
馬奈木団長 仮処分決定が出たから(開門期限に)間に合わなかったわけではない! 11月12日までになぜ開門できなかったのか。2年11カ月もあったじゃないか。
吉村局長 これまでの経緯を一つ一つたどっていかなければならず、ここでお答えすることはできません。
馬奈木団長 では、これから開門するには何が必要なんですか、答えなさい。
吉村局長 (長崎県側に)是非話し合いの席に着いていただいて、解決したい。
馬奈木団長 長崎県の中村(法道)知事は「開門前提の話し合いには応じられない」と言って断固拒否しているよね。「話し合い」とは、開門しないということだ!
 (2013年)11月12日の開門差し止めの仮処分決定は、国が(干拓事業で漁業被害が起きていると)言うべきことを言わず、我々には(漁業被害について)言うべきことを言わさず、(農民らの反対を名目に準備工事という)するべきことをしなかった「なれ合い」の結果もらった決定だ。すると、今度はその決定を隠れ蓑に開門を先延ばししようとしている。断固抗議する!
 農水省は、二つの裁判所から「開門しろ」と「開門するな」という正反対の判決をもらって二つの義務の間でハムレットのように困った「フリ」をしている。
 だが、開門したら開門反対の人たちは困るのか? そんなことはない。被害が出ないように対策工事をすればいいだけだ。予定されている工事で被害は出ないんだよね?
吉村局長 はい。
馬奈木団長 「はい」と答えた。対策工事をすれば被害は出ない。万一被害が出たら完璧に補償しますとも農水省は言っている。それで全部丸く収まる。義務など衝突していない。「開門できるように(対策工事を)きちんとやる。反対している人たちにも理解してもらうよう説得します」と約束してもらいたい。
瀧戸課長 今、この場では答えられません。

 馬奈木団長の気迫のこもった追及に、吉村局長も、瀧戸課長もまるで叱られている小学生のように終始うつむき加減で神妙な表情だった。漁民や市民から激しい野次も飛んだ。

悔しさのあまり感極まる平方宣清さん=2013年、12月21日の抗議集会、撮影・筆者拡大悔しさのあまり感極まる平方宣清さん=2013年、12月21日の抗議集会、撮影・筆者
 だが、二人は肝心な質問には具体的に答えず、開門という国の義務を果たさなかったのに、漁民に謝罪すらしなかった。

 佐賀県太良町大浦漁協の平方宣清さん(61)は、高校卒業後約40年タイラギ漁を続けてきた。現在の諌早湾干拓事業の前身の長崎南部総合開発事業(南総)時代から、「有明海の子宮」と言われた諫早湾をつぶす干拓反対運動の先頭に立ってきた。

 だが、2011年に原因不明の難病を発症、下半身が麻痺し、歩けなくなった。 ・・・続きを読む
(残り:約739文字/本文:約2346文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


関連記事

レコメンドシステムによる自動選択

筆者

永尾俊彦

永尾俊彦(ながお・としひこ) ルポライター

1957年、東京都生まれ。毎日新聞記者を経てルポライター。1997年の諫早湾の閉め切りから諫早湾干拓事業を継続的に取材。主な著書に『干潟の民主主義――三番瀬、吉野川、そして諌早』(現代書館)、『ルポ 諫早の叫び――よみがえれ干潟ともやいの心』(岩波書店)、『公共事業は変われるか――千葉県三番瀬円卓・再生会議を追って』(岩波ブックレット)など。