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山は誰のもの? エベレスト登頂中止と祝日「山の日」制定

田中敏恵 文筆家

 そこに山があるから登るというシンプルな挑戦は、時として大きな悲劇を生む。国内では5月の行楽シーズンでの遭難者が相次ぎ、4月18日には世界最高峰の山・エベレストで、大規模な雪崩により16人の命が失われるという史上最悪の事故があった。これを受け、ネパール側では今季のエベレスト登頂が中止となった。世界最高峰のシーズンは幕を閉じ、日本でも多くのメディアで取り上げられた。取り上げが大きかった理由のひとつはこれだろう。日本テレビ系のバラエティ番組『世界の果てまでイッテQ!』で、タレントのイモトアヤコがエベレスト登頂に挑もうとしていたが、この事故を受けて、番組はアタックの中止を決定したのだ。

 事故により命を落とした16人の人たちは、“シェルパ族”という、ネパール東部のヒマラヤ地域に暮らす人たちだ。シェルパは、エベレストなどのヒマラヤの雪山登頂において外国人登山者のサポートを行う。いわば道先案内人兼ポーターであり、彼らの存在なしには多くの登山家たちはエベレストを目指すことが不可能になる。今季のエベレスト登頂中止は、シェルパ族たちの登山の中止による結果である。

 ヒマラヤの山々は、この地域の人たちにとっては信仰の対象であった。チベット仏教の信仰厚い彼らは本来、聖山とみなす世界最高峰の山を登ろうとはしない。山の周りを五体投地などで、くるくると回るだけだ。その巡回を土地の言葉で“コルラ”という。地元の人々がコルラをし、祈りを捧げる神聖な存在・エベレスト。世界で最も高い山であるがゆえに、外国人登山家の憧れと野望の対象となり、20世紀から多くのチャレンジャーが頂を目指すこととなった。

 彼らの登頂には、高度での暮らしに慣れている地元民・シェルパの助けがカギである。しかし、標高8000メートルを超える雪山の登山は、今も昔も大きな危険を伴う。ロイター通信によると、昨年までに約250人がエベレストで命を落としているという。シェルパは、死の危険と背中合わせに冒険家たちのサポートをするわけだ。

 4月22日には、シェルパたちによりネパール観光省宛に嘆願書が提出された。そこには、政府が徴収した登山料350万ドルのうちの30%を今後の救助活動にあてること、死亡給付金を1万ドルから2万ドルに引き上げること、山での負傷による補償金の引き上げや、命を落としたシェルパための慰霊碑を建てることなど13の項目があった。これらはシェルパの待遇の向上と彼らの尊厳を主旨としたものであるといえよう。

 山にはふたつの種類があると思う。登るための山と、祈り崇める存在としての山だ。前述のとおり

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