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ブノワ賞を日本人が初受賞した意味――日本公演バレエ作品の受賞は可能か

菘あつこ フリージャーナリスト

 スウェーデン王立バレエ団で活躍する木田真理子さんが、日本人で初めてブノワ賞を受賞した。受賞作マッツ・エック振付「ジュリエットとロミオ」の舞台写真の中のロミオと向きあうジュリエット・木田さんの凜としたまっすぐな視線に、しっかりと自分の道を選び取り掴み取ってきた人特有の清々しい力強さを感じた。本当に素晴らしい受賞に心からの拍手を贈りたい。

 この賞、バレエファンにはお馴染みだが、一般の日本人には聞き慣れない賞といえるかもしれない。長年ボリショイ・バレエを率いてきた振付家・ユーリーグリゴローヴィチを代表とするインターナショナル・ダンス・ユニオン(初期にはインターナショナル・ダンス・アソシエーション)によって1992年から毎年春に開催されており、審査員はグリゴローヴィチを委員長に他は毎年替わり、バレエ界の重鎮から選ばれる。

 これまでに日本人の受賞で話題になったローザンヌ国際バレエコンクールやモスクワ国際コンクールとは根本的に違う。ローザンヌは留学先を得るための学生のコンクールでバレエ界への登竜門、モスクワやパリ、ジャクソン等のコンクールは世界のトップといえるプロダンサーも対象としているけれど、それも自ら出場したダンサーが10分前後までの踊りを踊って競い合うもの。だがブノワ賞は、日々、自らの芸術活動に身を捧げていると、ある日ノミネートされて受賞する。今回の「ロミオとジュリエット」も2幕ものの2時間程度の作品、このように1夜に上演される数時間の舞台等(短編作品の場合もあるけれど)、ひとつの芸術作品が対象だ。

 だから、バレエ界のアカデミー賞などと言われることも多いのだが、アカデミー賞がアメリカ映画を対象としているのと違い、ブノワ賞は世界中で上演された作品を対象としており、前年度1年間に世界中で上演されたバレエ作品に関わった優秀な振付家、ダンサー、作曲家や舞台美術家、ジャーナリスト等に贈られる。賞の名前のブノワというのは、19世紀の終わりにセルゲイ・ディアギレフと共に雑誌『芸術世界』を刊行した画家で、バレエ・リュス等の舞台美術家として活躍したアレクサンドル・ブノワにちなんでいる。

  これまでの受賞者を観ると、名実ともに、現代に生きる最高峰のバレエ界のアーティストが並ぶ。振付家ではジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアン、ローラン・プティ、ナチョ・デュアト、ウイリアム・フォーサイス等、ダンサーでは、シルヴィ・ギエム、ミハイル・バリシニコフ、ウリヤーナ・ロパートキナ、ウラジミール・マラーホフ、アリーナ・コジョカル、マニュエル・ルグリ、硫酸事件で話題になったセルゲイ・フィーリンも受賞している。

 また、今回、木田さんとともに女性ダンサーの賞を受賞したポリーナ・セミオニワはユニクロのCMにも起用されているダンサーだ。これを見て分かるように、登竜門コンクールであるローザンヌ国際バレエコンクールには、既に良い学びの場や最高峰のバレエカンパニーの直属バレエ学校在学者は、ほぼ出場しないということを以前書いたが、ローザンヌに出場する必要もなくそれぞれの場所で研鑽を積んだ人たち、ロシアやヨーロッパ、アメリカの最高峰のバレエ学校を優秀な成績で卒業して最高峰のバレエ団に入り、そこでまた頂点に登り詰めた人たちがズラリと並んでいるのだ。

 実は木田さんはローザンヌでの受賞をきっかけに海外に出ている。日本人が、世界的なダンサーとして活躍するにはなんらかのきっかけが必要なのだ。私は関西を拠点にバレエ取材を行っているが、木田さんも関西出身。大阪でバレエをはじめ、こうべ全国洋舞コンクールのジュニア2部、1部でそれぞれ1位を獲得後、ローザンヌ国際バレエコンクールに出場し、そのスカラシップでサンフランシスコバレエスクールに留学した。彼女がこうべ全国洋舞コンクールで2度1位を受賞した折のアートバレエ難波津の故・石川恵津子先生(後の故・石川惠己先生)も、ローザンヌに出た時のソウダバレエスクールの宗田静子先生も、私が様々な取材でお世話になっている先生だ。

 一方、 ・・・続きを読む
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筆者

菘あつこ

菘あつこ(すずな・あつこ) フリージャーナリスト

フリージャーナリスト。立命館大学産業社会学部卒業。朝日新聞(大阪本社版)、神戸新聞、バレエ専門誌「SWAN MAGAZINE」などに舞踊評やバレエ・ダンス関連記事を中心に執筆、雑誌に社会・文化に関する記事を掲載。文化庁の各事業(芸術祭・アートマネジメント重点支援事業・国際芸術交流支援事業など)、兵庫県芸術奨励賞、芦屋市文化振興審議会等行政の各委員や講師も歴任。著書に『ココロとカラダに効くバレエ』。

 

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