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NHK問題とは何か~公共放送の未来を考える 【鼎談】中北徹×林香里×増田寛也(3) 「中立病」は克服できるか

司会:WEBRONZA編集長 矢田義一

非常に狭い意味での「中立病」

  NHKでは2004年に起こった局員の制作費横領という不祥事の後、受信料収入が非常に落ち込んだことがあります。それをきっかけに経営委員会は、それまでの形式的なあり方を改めて、執行部を実質的に監督するよう機能強化されました。同時に経営委員は自ら全国各地をまわって視聴者との対話集会をもって、NHKの運営に外部からの声を吸い上げる仕組みもつくりました。

鼎談では活発な議論が続いた=東京・内幸町鼎談では活発な議論が続いた=東京・内幸町

 加えて、権限強化された経営委員会は、詳細な議事録をホームページにアップするなど、運営の透明性にも一定の努力が見られます。また、この不祥事後に、いわゆる「CS(お客さま満足)向上活動」が立ち上げられ、電話、メール、投書だけでなく、「ハートプラザ」や「ふれあいミーティング」など、視聴者と直接対話する場が設けられるようになりました。このように、NHKは、とくに2005年の受信料の落ち込み以降、「みなさまのNHK」として非常に気を遣ってきたわけです。けれども、こんどはそれによって、その時々の世論にあまりにも過敏すぎるのではないかと私は感じます。

 先ほど中北先生が日銀との関係に触れていらっしゃいましたが、日銀もNHKも、金融と報道という分野の違いはありますが、ともに専門者として、自主自立で判断する裁量が委ねられている組織ではないかと思います。NHKにはメディアに関するさまざまなノウハウが蓄積され、報道のプロフェッショナルとして社会で何が重要か、そうでないかについてのニュース価値の判断も委ねられてきました。したがって、一般の国民の意見は大事だけれども、他方で、専門者集団として、世論に迎合しない、一定の見識があってしかるべきで、それを求められてもいるはずです。

林香里氏林香里氏

 戦後、多くの国で公共放送制度が発達してきたのは、民主主義社会をよりよくするためには、「知識ある市民」の存在が大前提であると考えられてきたからなわけですが、今のNHKには、プロの報道機関としてそうした市民を育てようという、ある種のプライドが欠けていないでしょうか。過度に視聴者の瞬間的空気や刹那的意見に迎合しているような気がしています。

 例えば、今回の中北先生のできごとでも、選挙の際、エネルギー問題に関する多様な知識を市民に十分に伝えることは重要で、自分たちこそその役割があるという矜持を持ってほしかったと思いますが、権力からの苦情を先取りして自己規制してしまうところが非常に歯がゆい。NHKには大変優秀な方がたくさんいらっしゃいますが、肝心なときに「中立」「公正」という盾に隠れて事なかれ主義に陥ってしまう。しかも、さきほども触れましたけど、「中立」や「公正」がひとつの番組内で実現されなくてはならない、という非常に狭い意味での「中立病」に陥っています。

 申し上げるまでもなく、そんなことでは様々なテーマや争点を深く掘り下げる番組はできず、内容も面白みに欠けるでしょう。番組ごとにメリハリを利かせ、突っ込んだ切り口を提示してこそ、受信料を払っても見ようという気になるものです。また、NHKをまだまだ国営放送と信じている視聴者も多いようで、意識もそこまでついていっていないのかもしれません。私たちはNHKをもっともっと私たちのために活用することができるはずです。

視聴者より政治を優先

 増田 ポピュリズムに迎合しないということはとても重要です。つまり、NHKと住民というか国民との距離です。それから政党との距離というのを個々に過敏にその番組の中だけで中立性とか公平性を保つということではなく、もっと広く考えるということも必要でしょう。選挙期間中で特定の候補者と特別な関連があるような取り上げ方は、確かに公職選挙法上の問題も出てくるでしょうが、大きなテーマや争点についての事例や検証などは触れざるを得ません。

 視聴者との関係そのものを常に気にはしているのでしょうが、端的に言うと受信料の未納率というか不払い率がぴんと上がってくると、とても敏感になって、わっと反応し、そうではない時はどちらかというと、予算を握られている政治の方を視聴者より優先するような傾向がないわけでもないですね。やはり、その辺りのバランスのとり方に課題があるのでしょう。

増田寛也氏増田寛也氏

 私が総務大臣として接した範囲でも、経営委員会とか一部の経営委員らの存在によって職員が内部で自由にものを言いづらい雰囲気が指摘されることもありました。特定の番組における内容を表面的に問題にするよりも、NHKの中の人間が経営委員に対して自由に物を言いづらいという雰囲気がさらに出てきたのだとすれば、これはものすごく問題だなという感じがします。

 今のように、経営委員がどこか誰かの選挙応援に行ってしまうなどということは、少なくとも私が総務大臣の時はありませんでした。こんなことが起きてくるとは、ちょっと驚きですね。これは問題だと思うし、そもそも

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