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元経産省官僚・古賀茂明さんに聞く――ブレーキなき安倍政権が突っ走る原発再稼働への道

前田史郎 朝日新聞論説委員

 今年は震災後、初めて「原発ゼロ」で迎える夏となった。しかし原子力規制委員会の再稼働の審査は秋以降の再稼動に向けて、いよいよ大詰めを迎える。安倍政権は稼働させる方針を明言、原発推進派の学者を規制委の委員に送りこんだ。どこかでブレーキはかからないのか、日本維新の会の橋下徹大阪市長は再び脱原発の旗印を掲げるのか――。元経産省官僚、古賀茂明さんに現状を分析してもらい、今後の展開をうらなってもらった(聞き手=前田史郎・朝日新聞編集委員)。

 ――安倍政権は安全が確認された原発を再稼働させる方針を繰り返し述べ、川内原発(鹿児島県)が再稼働の一番手とされています。各種の世論調査で脱原発を求める世論は依然として多いですが、このままでは各地の原発が次々と動き出す流れにあります。現状をどう見ておられますか。

 原発を動かさないと火力発電の燃料コストがかさみ、電気料金を値上げせざるを得なくなる、というのが政府や電力会社の言い方です。一種の宣伝戦略です。安倍さんの計算は、川内原発を動かした後、電気料金を下げさせることだと私はみています。「原発が動くと安くなります」「値上げは避けられます」と国民に実感させ、再稼働の方針をおし進めようという作戦です。みんな目の前の損得でどうせ考えをかえるだろうと。国民は軽く見られているのです。

 原発とは本来、「安いエネルギー」ではないのだから、これは全くおかしな論理。原発の本当のコストをちゃんと計算すれば原発の方が高くなる。その土俵に一回もっていかないと、この議論はいつまでも堂々巡りです。

 ――原発のコストには、事故が起きた時の賠償費用や使用済み燃料の処理費用なども入るということですか。

 そうです。事故のコストと核のゴミのコストを全部企業が負わなければならないと、はっきり法律にかけばいい。対策と計画をつくり、そのためのコストを積み立てるか、あるいは保険でカバーするように義務づける。電気事業法の改正が国会で議論されましたが、こうした義務づけこそ論じるべきでしょう。

 普通の工場だったら自分の出した産業廃棄物はちゃんと処理する。火事がおきたら自分で賠償する。当たり前です。それは原発も同じだと決めればいいだけ。そういうコストは試算すると膨大になるから、電力料金が安くなるなんて理屈になるはずがないんです。

 ――特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認などの問題もそうですが、一定の支持率を背景に、政権にブレーキがなくなっているようにも思います。

 安倍さんは小泉内閣を引き継いだ時、高い支持率からいっきに落ち込んだ経験をした。その後、民主党が政権をとった時も、高支持率から低支持率へ急落した。天国と地獄を2回、目の当たりにし、いかに世論が大きく振れるのかを実感し、逆にこれをコントロールすることがいかに大事か学んだ。トップが先頭に立って広報戦略を練り、時々の世論の動向を詳しく分析しながら、ありとあらゆる方策を駆使して、マスコミを誘導し、国民を錯覚に陥らせようとしています。

 たとえば集団的自衛権。世論の理解を得るのに、根拠は必要なくて、結論だけいう。「これでは戦争に巻きこまれる」と指摘されても、「誤解があります。そんなことはありません」で終わり。なんでないのか、と突っ込みたくなりますが、それ以上は進ませない。閣議決定文を読む限り、イラン、イラクに行かないなんてどこにも書いていない。「でもそんなことありません」と総理がいえば、そこはテレビで流れる。閣議決定全文を読む人はいないから、その結果、世間は「絶対に戦争をしない」「平和のためだ」といっているじゃないか、と受けとめてしまう。

 ――先月、原子力規制委員会の新しい委員に、原発推進を担ってきた田中知(さとる)・東大教授をあてる政府人事案が承認されました。原発の審査に厳しかった島崎邦彦氏が退任します。ここまであからさまなことをするのかと思いました。

 電力会社からみると島崎さんは審査に厳しい人でも、客観的にみるとごく普通。あるいは穏健派です。安倍総理の秘書官の一人も、島崎さんは決して脱原発じゃない、言ってることはまともだと評価していたというほどです。

 彼がかかわった原発敷地内の破砕帯の審査ですが、日本は世界でも有数の大地震多発地帯で、しかも今は活動期に入っているわけですね。それなら少しでも危なければ原発の運転を止めるという考え方に転換するのが本来の審査のあり方。今の議論は、9割がた危ないなら止めるが、どちらともいえない普通のグレーなら止めるのは行き過ぎだという立場です。具体的な危険性が少しでもあるなら止める。そう転換するチャンスを逃してしまった。

 細かい議論や審査を長期間続けるよりも、安全だとは言えないという結論を出して、どこかで申請を却下してしまえばいいはずです。規制委はむしろ、何とかして認めてあげるため、電力会社にああしろ、こうしろと注文をつけているのです。そういう意味では、再稼動ありきだと言ってもよいでしょう。

 安倍政権が島崎氏を交代させたのは、いかにも自民党が電力会社のために頑張っているというところを見せたということでしょう。経団連や電力会社から早く再稼動しろとものすごい圧力がかかってますからね。それに対する一つのパフォーマンスでしょう。

 ただ、新委員の田中知さんは原子力ムラに直前まで属していた人ですから、就任すれば、実際に規制委の判断が、今までよりも電力会社よりの姿勢になっていく可能性は十分にあると思います。

 ――電力9社の株主総会が6月にありました。関西電力の総会では2年ぶりに橋下徹大阪市長が出席し、経営陣に退陣を迫りました。かつて大阪府・市のエネルギー政策を立案した古賀さんからみて、橋下さんの言動をどう見ましたか。

 橋下さんのロジックは、脱原発というより、関電の経営をちゃんとしろということです。2年前の総会で「原発なんてそうそう動かせないのだから、それに対応してちゃんと対策をたてなさい」と注文した。それをまじめにやらなかったんだから失格だ、と。もう一つは、原発を動かしても経営的に ・・・続きを読む
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筆者

前田史郎

前田史郎(まえだ・しろう) 朝日新聞論説委員

1961年生まれ。神戸、広島支局、東京・大阪社会部で事件や行政、核問題、厚生省クラブなどを担当。社会部デスク、教育エディター、大阪・社会部長、同編集局長補佐、論説委員、編集委員、論説副主幹(大阪駐在)を経て18年4月から現職。気象予報士。著書に『核兵器廃絶への道』(共著)。

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