2014年07月25日
6月29日、ソウル市麻浦区のイベントスペースにて、「セックスワーカーの日 韓国と日本の性労働者の人権状況」と銘うたれた報告会が開催された。主催者は、ジャイアント・ガールズ(以下、GG)。韓国のセックスワーカー人権グループである。この記事では、報告会と、同日行われたトランスジェンダー・セックスワーカーによる演劇公演の模様をレポートする。
韓国では、6月29日は「セックスワーカー(性労働者)の日」である。当事者や支持者、業者などの民間が決めたもので、政府公認ではない。2005年6月29日にソウルオリンピック公園にて開催された「セックスワーカー宣言式」に起源を持つ。ワーカーによるデモ行進や関連イベントが行われたり、ワーカーたちが仕事を休み、一緒に餅を食べてお祝いすることもある。
GGは当事者と、市民や研究者などの支持者から成るグループで、セックスワーカーの生存権、労働権、市民権の獲得を目ざして2009年に結成された。今年の性労働者の日、GGは、セックスワーカーの健康と安全のために活動している日本のグループSWASHを招き、報告会と演劇公演をおこなった。それぞれに市民や学生ら約30人が参加し、会場は満席となった(なお、こちらの記事ではSWASHの要友紀子氏にインタビューをしている)。
韓国におけるセックスワークの位置づけについて、ごく簡単に言及しておきたい。韓国の性労働を取りまく状況は、きわめて厳しいものである。
「セックスワーカーの日」が非公式にせよ決まっていて、セックスワーカーたちが要求を掲げて街をデモ行進するなどというと、韓国ではセックスワークは社会的に認められている印象を持つ人がいるかもしれない。また、あるフェミニスト団体はGGを応援し、団体主催のコロキアムでGGメンバーの発表機会を設けるなどしている。そんな話を聞くと、ますます認められている印象が強まるかもしれない。
しかし、韓国社会全体からすれば、セックスワークへの風当たりはきわめて強い。セックスワークをすれば、1年以下の懲役または300万ウォン(約29万円)以下の罰金などに処される。後述するが、警察によるセックスワーカーへの人権侵害はたいへん深刻である。市民はそれに疑義をさしはさむどころか、自分たちが「ミニ警察」となって、率先して人権侵害をしようとしているように見える。フェミニスト団体にしても、GGを支持するのはまれで、多くの女性団体はセックスワークに否定的だ。のちに話題となる「性売買特別法」はセックスワークの根絶を目的の一つとしているが、女性団体の強力な推進運動のもと成立した経緯がある。
そうした状況に抗うゆえの「セックスワーカーの日」のデモ行進であり、一部フェミニスト団体との連帯なのである。一筋縄ではいかないセックスワークの位置付けを念頭に、レポートを読んでいただければと思う。
この日のイベントで、GGメンバーのヨニ氏が発表した「韓国・性売買特別法の人権侵害事例報告」は、本法がワーカーにもたらしている被害を紹介したものである。
本題に入る前に、「性売買特別法」について説明したい。この法は、「性売買防止および被害者保護などに関する法律(以下、防止法)」と「性売買斡旋等犯罪の処罰に関する法律(以下、処罰法)」の総称である。以前あった「淪落行為等禁止法」にとって代わるもので、2004年3月に制定、同年9月に施行された。セックスワーカー女性の保護とセックスワークの根絶を目的としており、いずれも女性団体の強い後押しによって成立した。
韓国の女性運動にくわしい山下英愛によれば、きっかけは2000年に群山で起こった性売買業所の火災事件だったという。この店で働いていた女性たちは、多額の借金を背負わされ、部屋の外から鍵をかけられて監禁され、性奴隷状態に置かれていた。事実が明るみになるや、女性団体は地元の性売買の実態調査に取りくみ、2001年当時、新設されたばかりの女性部(日本の省に相当。現在の女性家族部)の後押しを受けながら性売買関連法の制定運動を行った(注1)。同じような人権侵害を防ぐための「善意」の運動だったといえる。
しかし、女性団体は思わぬ事態に直面する。法施行直後、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください