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世界選手権プレビュー 無良崇人の「意志」(下)

パワーに加わった繊細さ

青嶋ひろの フリーライター

 4年間の、スタートの年。

 スケートカナダで優勝できるほどの地力はつけて、シーズンに臨んできた。4回転ジャンプも「他の3回転と何ら変わらない意識」で跳べるまでに精度を上げてきた。「カルメン」「オペラ座の怪人」と、ふたつのプログラムも、彼らしさを十分生かした作品が見せられている。

 先輩二人が引退した後の全日本選手権、チャンピオンだって狙いたいところだ。しかし、上が抜けたと思ったら、もう下から追い上げる選手が出てくる――。

 「見ている人は楽しいでしょうけれど、中にいる僕たちは大変ですよ……」

無良崇人動きの美しさも加わった無良崇人
 そんな言葉を彼が笑いながら言ったのは、3年ほど前。ソチまでの大混戦が終わったと思ったら、ピョンチャンまで、さらなるデットヒートが1年目から始まってしまうとは、彼も想像していなかっただろう。

 ほんとうに私たちがわくわくと楽しめる分だけ、只中にいる選手たちはきつい。特に彼のいる立ち位置は、今、一番つらいところだ。

 残酷なことに、彼は選手たちの中でも一、二を争うほど、スケートに対して慧眼。

 宇野昌磨が今シーズン急成長するだろうことも、誰よりも早く気づいていた。まだあの17歳がそれほど大きな話題になっていなかった10月、グランプリシリーズの記者会見のころから、「4回転を跳べるようになった宇野君をはじめ、若い選手たちにも油断はできない」と彼のことを話題にしている。

 そんなふうに同じスケーターとして、年下の選手たちにもきちんと敬意を払うのが彼だ。

 特に羽生結弦のことは、いつも聞かれずとも積極的に語ってくれる。たぶんスケーターとして純粋に、強い選手が好きなのだろう。

 「羽生君のジャンプや演技を見ていると、

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