「練習をしている」という第一報が一人歩きして……
2015年05月22日
フィギュアスケートオフシーズンの話題は、これしかない――シーズン終了直後から、多くのメディアが浅田真央の去就について注目し、ほんとうに多くの情報が飛び交っていた。
「やめちゃうみたいだね」「やめるって聞いたんですけど」
そんな声ばかりが聞こえてくる時期もあった。かと思えば次の日には、
「真央ちゃん、練習してるって!」「競技に戻りたいって、言ってるらしい……」
真逆の情報がいきなり増えて、また元に戻って……そんなことがずっと続いていたのだ。
メールやLINEなど、関係者とのやり取りを今見返すと可笑しい。
ここ1カ月ほど、熱心なメディア関係者はこぞって右往左往していたのだ。大の大人が華奢な女の子ひとりに大いにふりまわされる日々が、また戻ってきたのか、としみじみと思う。
とにかく今回ばかりは、情報は錯綜していた。そのくらい、皆が何かを言いたかったのだろう。そのくらい、彼女自身も迷いに迷っていたのだろう。
そしてこの春聞いた中で、いちばん深く残っているのが、この言葉だ。
「最近の真央ちゃんの練習……もうオフの人の練習じゃ、ないです」
中京大のリンクで練習している後輩選手のひとこと。
ああ、と思った。「世界一練習する」と言われた彼女が、また滑り始めたのか。
止まっていた古いフィルムがまた動き出したように、不思議にときめいてしまった。
「知りたい人がいて、情報を持っているのならば、それを書くのが僕らの仕事です」
14―15シーズンは記者会見前、スポーツ紙一紙が「一年休養」と報じスクープを取った形となったから、「今年も」「今年こそは」としのぎを削る人々が少なからずいた。どこがいちばん最初に報じたかなど、メディアの人々以外は誰も気にしていないだろうに。
「そんなことは皆、わかっています。でもそこで戦うのが、僕らのモチベーションなんです」
結果、最初に流れたのは、特にニュース性のない一報だった。
「真央、現役続行を視野に練習を再開」
通信社の配信だったため、翌朝のスポーツ紙を中心に一斉に報道される形となったが、内容は「引退」でも「現役復帰」でもない。彼女自身や所属事務所、大学などからの正式な発表でもない。ただ、「練習をしている」というだけの本来ならばたいしたニュースでもない一報。それが浅田真央というだけで、大騒ぎになってしまった。
特に直接取材をしていない、二次情報を流すだけのメディアの拡大解釈は凄まじかった。元の記事はあくまで、「現役続行を視野に」にすぎないのに、「現役続行!」と言い切る、あるいはそう思わせる報道が多すぎはしなかったか。
彼女はまだ、一言も発してもいないのに
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