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大半は更生する少年犯罪者、少年Aは失敗例か?

少年Aは完治していないものの再犯しない適応力つけた一応の成功例、理想は改心だが…

河合幹雄 桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)

売り場に平積みされた「元少年A」の手記「絶歌」=2015年6月10日、東京・神田神保町の三省堂神保町本店拡大売り場に平積みされた「元少年A」の手記「絶歌」=2015年6月10日、東京・神田神保町の三省堂神保町本店
 神戸児童連続殺傷事件の犯人であった少年Aが、最近、事件を振り返る手記を出版しホームページを立ち上げて物議を醸している。実は、刑事政策的な観点からは、少年Aは、更生の成功例なのだが、ワイドショーなどでは勘違いした議論が横行している。非行少年の更生についての知見から丁寧に議論を整理しておきたい。

 また、報道機関の「騒ぎすぎ」は、少年Aという特異な例から、少年犯罪者の更生全体についての誤った印象を国民に抱かせるという大きな弊害を招いている。現在日本の少年犯罪の更生の全体がどうなっているかということこそ重大なテーマである。順序としてこちらから論じたい。

 少年犯罪自体の状況は、警察統計によれば、ここ10年で激減である。凶悪犯は半減以下、窃盗にいたっては3分の1近くにまで減っている。少年自体の数が減少していることを差し引いてもまれにみる激減傾向にある。

 ところが、どの世論調査をみても、少年犯罪は凶悪化していると思っている人が圧倒的多数に上っている。確かに酷い事件はなくならないので、その幾つかを報道で見聞きすれば、状況が悪くなっていると感じて不思議はない。

 しかし、実際は、20~30年前ならニュースにもならない事件が、大きく報道されている。犯罪報道の細部にウソはないのだが、その紙面の割き方が尋常ではない。確かに殺害された人と家族にとってはこれ以上ない重大事件であるが、そこまでの紙面を割く必要があるとは思えない。

 少なくとも、少年犯罪全体は減少していることを示して、国民の勘違いをさけるべく慎重に報道しなければ「真実」は伝わらない。その点、マスコミ報道は大きな過ちを犯しており、直ちに検証記事を出すべきである。

 それに、そもそも少年犯罪にとって大切なことは、凶悪化や数の増減ではない。少年を更生できるかどうかが、最も注目すべき点である。日本社会は、先進国の中でも、他国と比較にならないほど犯罪が少ない社会であることは、さすがに多くの人が認識しているところであろう。日本の人口比の犯罪発生率は、何割か少ないレベルではなく桁が違う。

  その原因は、非行少年が、ほとんど更生するからであり、この部分こそ、日本社会が世界に誇れる部分である。犯罪白書の3-1-1-3図非行少年率の推移は、ある年に生まれた少年が何歳の時に人口比で何人検挙されたかをグラフ化しているが、12歳から検挙される者が出始め15歳から16歳でピークをつけている。重要なのはその後で、17歳、18歳、19歳と大きな傾斜で人口比での検挙数は減少する。19歳では、ピーク時の約5分の1になる。

  このことは15歳・16歳で検挙されていた少年の8割以上が19歳では検挙されなくなっていることを意味する。新たに非行に走る少年もいることから、実際は、一度検挙された少年の9割近くが、検挙されていない。見事な更生の成功である。諸外国では、少年期に非行に走り、大人になって本格的な犯罪者になることがパターン化している。

  治安が良い日本社会を支えてきたのは、この非行少年の更生の成功なのである。報道記者は、勉強不足で、警察で取材したことを垂れ流すことによって国民に大きな誤解を与えていることを猛省すべきである。

  さて懸案の少年Aのことだが、ここまで述べてきた更生の意味付けに注目してほしい。諸外国と比較して、一般論として少年の更生は稀にみる大成功を収めていると言う時の更生の意味は、あくまで再犯の阻止である。より正確には、 ・・・続きを読む
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筆者

河合幹雄

河合幹雄(かわい・みきお) 桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)

1960年、奈良県生まれ。京都大大学院法学研究科で法社会学専攻、博士後期課程認定修了。京都大学法学部助手をへて桐蔭横浜大学へ。法務省矯正局における「矯正処遇に関する政策研究会」委員、警察大学校嘱託教官(特別捜査幹部研修教官)。著書に『安全神話崩壊のパラドックス 治安の法社会学』『日本の殺人』『終身刑の死角』。

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