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ザ・ワイルドワンズが加瀬邦彦氏追悼コンサート

活動を再開する3人が東京・中野で12月に、新しい曲を作りCDも発売

薄雲鈴代 ライター

 来たる12月13日に東京・中野サンプラザホールで、ザ・ワイルドワンズのコンサートが開催される。それは今春、人生を旅立ったリーダー加瀬邦彦氏の追悼コンサートであるとともに、結成50年目を記念してメンバー3人(鳥塚しげき・植田芳暁・島英二)で始動する、はじめの一歩でもある。

 そのコンサートチケットは、発売まもなく入手困難となり、残席僅少。

ポジティブに粋でカッコいい、なにより人をたいせつに想う加瀬邦彦という人物

発売するCDのうち数曲の録音を終えた、(左から)植田芳暁、島英二、鳥塚しげきの3人=2015年10月19日、東京都世田谷区拡大発売するCDのうち数曲の録音を終えた、(左から)植田芳暁、島英二、鳥塚しげきの3人=2015年10月19日、東京都世田谷区
 「どんな仕事でも、正面から真面目にやらないとダメだよ。奢(おご)った姿勢は顔に出るんだよ。大きなステージに立つのも、小さな会場で演奏するのも、どれもおなじ。ありがたいね」

 この加瀬さんのことばは、ワイルドワンズが結成された最初から50年間貫かれた精神で、このグループの根幹をなす。メンバーのひとり島英二さんは、次のように語る。

 「ワンズはデビューしてすぐに大ヒットしたでしょ。それも加瀬さんひとりの力で。それなのに何も知らない素人の僕らは、いきなりスター扱い。この凄い勢いに足もとを掬われないように、皆で食事をしているときなどに、加瀬さんはふっと語ってくれるんです。人が人としてどうあるべきかを。お説教ではなくね」

 グループサウンズの熱狂的なブームの中にあって、ワイルドワンズだけは、健康的で、清く正しく、ひたむきであった。それは大ヒットした『想い出の渚』に抱く印象と寸分違わない。

 「わかりやすくいうと、たとえば僕たちは賭け事をしない。ひと昔前の芸能界は、楽屋に入ればすぐ賭け麻雀に興じる、なんていうのが日常の光景でしたが、そこにワイルドワンズの姿はない。また、付き人や裏方の人にぞんざいな口を利いたり、こき使う芸能人も多かったのですが、加瀬さんはそういうのが一番嫌いだった。人をおもんじる、それが加瀬さんの教えだった」(島・談)

「一生懸命働いて貯金して、みんなで楽しい旅にでよう!」ワンズ的精神

 「いま、3人で一生懸命頑張っていますが、やはり折々、加瀬さんの存在、加瀬さんの教えが出てきます。ワイルドワンズは、ほんとうに仲が好い。仕事が終わって休みの日でも一緒にいられる。‘こんど釣りに行く?’、‘行く行く’っていう調子です。また、加瀬さんの方針で、コンサート会場でのCDやグッズの売り上げは貯金しておき、スタッフと皆でハワイやサイパンなどへ旅行に行くんです。仕事じゃないから、義務ではないのですが、それをみんな楽しみにしている。

 実際、家族よりもワンズといる時間のほうが圧倒的に長い。だからメンバー同士、何も言わなくとも、その場の空気で相手の気持ちが察せられる」(島・談)

『想い出の渚』を新たに録音、そしてオリジナルのニューアルバム12月13日発売

  「僕たちは加瀬邦彦の曲を大切に唄い続けます」という想いを胸に、この夏『想い出の渚』と『懐かしきラブソング』を3人で新たに録音しリリースされた(定価1000円)。かの有名な『想い出の渚』の冒頭は、加瀬さんに代わって島さんがあの12絃ギターを弾いている。

 「植田くんの発案です。弾いていて、加瀬さんへの想いで胸が苦しくなった」

 新録のCDにはワイルドワンズのコンサートのエンディングには欠かせない『懐かしきラブソング』も収録されている。

 「あのセンス、加瀬さんの名曲ですね。自分が新たに作曲するにあたって、加瀬さんの楽曲を想うと、凄すぎて茫然となってしまう」

 6月に発売になった『想い出の渚』でひとつの区切りをつけて、3人はいま、ニューアルバムのレコーディングに勤しむ毎日。一人ひとりが作詞・作曲して、新しい曲をつくっている。

 「‘前に進もう’と3人で話すのですが、僕自身、曲をつくっていると、どうしてもリーダーのことを想ってしまう。頭から離れない。メンバーに‘どうしても加瀬さんのことが出て来てしまう’と話したら、植田くんも鳥さんも‘いいじゃない’と言ってくれた」

 現在、制作中の島さんの曲のコンセプトは‘ポラリス’。不動なる存在、天空に輝く北極星がイメージされている。その曲も収録されたCDは、12月のコンサートの日に全国一斉発売される。

音楽の殿堂「ケネディハウス銀座」オーナー加瀬邦彦の想いが息づく

 東京・銀座のコリドー通に、加瀬邦彦の店「ケネディハウス銀座」がある。夜毎、60~70年代のロック・ポップス・グループサウンズを中心に、ビートルズナンバーから最近のヒット曲まで、洋楽邦楽バラエティーに富んで生演奏されている。ハウスバンドのスーパーワンダーランドをはじめ、月に一度はワイルドワンズの公演、さらに加山雄三とハイパーランチャーズの公演、ほかにも名だたるアーティストがステージに立つ。

 島英二さんは加瀬邦彦葬送の弔辞で、このケネディハウスを「加瀬さんのプライド」と称した。

 「リーダー加瀬邦彦がこのケネディハウスを作ってくれたおかげで、ワイルドワンズはいつも‘今’を生きることができた。どんなご時勢であろうとも、ここで演奏するということが常に現役であることを保たせてくれました」

 加瀬さんのプロデューサーとしての感覚は鋭く凄い。このお店にしても、よくあるライブハウスにしたくないと、創業にあたっては、スタッフもホテルからスカウトして、接客のプロを揃えていた。

 島さんが語るとおり、ケネディハウスは極上の生演奏を聴かせるだけでなく、ドリンク、フードメニューも贅沢でお洒落なのだ。私も東京へ行くたびに足を運ぶ大好きな店である。今では誰でも知っているバーニャカウダーの野菜スティックなども、十数年前にこの店を訪れた際に初めて知った。音楽を聴く場であって、がつがつご飯を食べる場所ではないだろうが、美味しくて、新奇の驚きがあって、つい注文してしまう。巷によくあるジャンクフードで手を抜くことなどまったくない。これもまた、加瀬邦彦の粋な流儀なのだろう。

 ケネディハウスに行くと、いつもワクワク、歓喜踊躍する。陽気が満ちて元気になる。なかでも、ひときわ忘れ得ぬ思い出がある。

 それは特別なライブの日ではなく、通常営業の日のことであった。たまたま加瀬さんがお店を覗かれ、目敏く見つけた観客から「加瀬さん、一曲やってよ!」と声がかかった。加瀬さんはニッコリ微笑んで、ステージに上がるとギターをとって『想い出の渚』をおもむろに弾き出した。その第一音節が響いただけで、店内がどよめき、みんなで大合唱になった。会社帰りの疲れたサラリーマンの顔が、ほんとうにピッカピカに輝いて、観客全員が大声で楽しそうに熱唱した。そんな一幕に居合わせたことがある。

 「加瀬さんのモットーは、ステージを楽しんでもらうこと。巧いね、ヘタだね、の前に、まず楽しんでもらうこと」と、はからずも島さんが教えて下さった。まさしく腑に落ちた。

尽きせぬ加瀬邦彦への想いを胸に歩き出す3人のワイルドワンズ

 誰から言いだしたでもなく、「やろうね」「うん、やろうね」と暗黙の了解で始動した3人のワイルドワンズ。

 「加瀬さんがいるから僕たちがいた。人が逝くことは悲しいのだけど、それよりもっと遣る瀬無いのは、その人が忘れられてしまうこと。僕たちはグループで、3人いるのだから、これからも加瀬さんの素晴らしい曲を、その遺徳を伝えていくことができる。ありがたいことに皆さんが心配して、そして応援してくれています」

 加瀬さんは、まず人を視る。その加瀬さんが惚れこんで信頼を寄せ、ともに歩んできたスタッフが、今なお変わることなくワイルドワンズの3人を支えている。

  「加瀬さんとの縁(えにし)で結ばれた制作スタッフが、我々メンバーに多大な力をそそいでくれています。このことには我々3人、日々感謝して頑張っているのです。‘50周年に向けて自分たちでやっていく’……その好機をリーダー加瀬さんが与えてくれたんだと思います」

  それが残されたものの役割である――と、島英二さんは語る。

 「想いでは時を超え 心によみがえる……」

 ワイルドワンズが歌う感佩(かんぱい)のフレーズが、まもなく加瀬さんの心に届く。 ・・・続きを読む
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筆者

薄雲鈴代

薄雲鈴代(うすぐも・すずよ) ライター

ライター。京都府生まれ。立命館大学在学中から「文珍のアクセス塾」(毎日放送)などに出演、映画雑誌「浪漫工房」のライターとして三船敏郎、勝新太郎、津川雅彦らに取材し執筆。京都在住で日本文化、京の歳時記についての記事多数。京都外国語専門学校で「京都学」を教える。主著に『歩いて検定京都学』『姫君たちの京都案内・源氏物語の恋舞台』『ゆかりの地をたずねて新選組』。

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