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ロシアのドーピング違反は東京五輪にどう及ぶか

過去五輪で違反者ゼロの日本に比べ、史上初の国の資格停止で次元異なる深刻さのロシア

増島みどり スポーツライター

ドーピング違反により独立委員会の報告書で永久追放の勧告を受けた、ロンドン五輪の女子800メートルで金メダルのマリア・サビノワ(右、ロシア)と銅メダルのエカテリーナ・ポイストゴワ(左、同)=2012年8月7日ドーピング違反により独立委員会の報告書で永久追放の勧告を受けた、ロンドン五輪の女子800メートルで金メダルのマリア・サビノワ(右、ロシア)と銅メダルのエカテリーナ・ポイストゴワ(左、同)=2012年8月7日
 ロシアの組織ぐるみのドーピングへの最新の処分が11月26日、モナコで行われた国際陸上連盟理事会で正式に決定した。

 すでに13日、WADA(世界アンチドーピング機構)の独立調査委員会が実態をまとめた報告書を受け、同連盟は臨時理事会を開いてロシア陸連を暫定的な資格停止に。処分を確定する理事会前日までに、ロシア陸連が異議申し立てをせず、「(反論のための)聴聞は受けずに、この処分を全て受け入れる」との文書で通知して来たため、違反した選手個人ではなく、国を資格停止とする前代未聞の重い処分が下される結果となった。国・地域への資格停止は国際陸連では初となる。

  現時点では、来年のリオデジャネイロ五輪への出場だけではなく、全ての国際大会への出場が禁止される。この処分を解除し資格を回復するには今後、ドーピング撲滅への強い意志表示と組織の見直し、国際陸連による査察や信頼回復を確認するための専門家の厳しい審査を受け入れなくてはならない。ロシア側の思惑が、威信といった「名」より、こうした介入を積極的に受け入れてでも、

  一刻も早く国際大会への復帰を果たす「実」に集約された格好だ。

  昨年末、ドイツのテレビ局でロシアの選手自らが告発して始まった疑惑は、WADAによる第三者機関の徹底した調査を経て、史上最悪のスキャンダルに発展したことになる。これまでの違反と異なるのは、選手とコーチといったチーム単位での違反が、組織が選手に薬物の使用を持ちかけ、抜き打ち検査などを含む情報操作を陸連が行い、検査をすり抜けるノウハウを国の検査機関が提供するといった完璧な組織化にある。皆で秘密を守りさえすれば、発覚するはずがないのだ。

  さらに、WADAが厳しい審査の上で「お墨付き」を与えてきたはずの各国検査機関の不正は、WADAの権威や信頼性、スポーツの道徳観をも根幹から失墜させてしまった。

  04年アテネ五輪ではメダリストの薬物違反に巻き込まれた経験を持つ、ハンマー投げの同五輪金メダリスト、室伏広治(41=ミズノ)が「怒りを覚える」と厳しい表現をし、リオでは団長を務める橋本聖子・JOC強化本部長が「選手への侮辱」と断じたのも、問題がもはや個人の過失といったレベルにはない事態への憤りと危機感からだ。

過去、五輪での違反者ゼロ、世界に誇る日本のアスリートと、東京五輪

  88年ソウル五輪から四半世紀が経過した2013年秋、薬物使用で世界中に衝撃を与えた同大会の男子百㍍、ベン・ジョンソン(53=カナダ)のインタビューを東京で行った。

  カール・ルイスとの対決を制して金メダルを獲得し当時の世界記録9秒79をマーク。わずか24時間後、全てをはく奪されたヒーローは地に堕ち表舞台から姿を消した。全ての薬物問題は「ベン・ジョンソン」から始まったともいえる、それほどの衝撃を与えた事件だった。

  「21歳の時、コーチ(チャーリー・フランシス氏)から、頂点に立つには、薬を使わなければ絶対に勝てないのだ、と言われた。今でも思い出すのは、とても怖かったことだ。母親にさえ何も言えなかった」と改めて、25年が経過した今も消えない薬物使用の恐怖、罪悪感を口にしていた。人生を決定的に破壊する薬物使用の対極にある国として、世界中で注目されるのが日本である。

  日本は過去の五輪で違反者を1人も出していない。「2020年東京オリンピック・パラリンピック」開催が決まったのも、招致を争ったマドリード(スペイン)、イスタンブール(トルコ)を上回ったアンチ・ドーピングへの姿勢が高評価されたからだった。

  競技への倫理観、高潔性を啓蒙する教育に加え、検査態勢にも改めて①独立性②正確性③厳格性を徹底する。

  11月に新設されたスポーツ庁、鈴木大地長官自身

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