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広島の中3自殺と2020年大学入試改革

恣意的な教師の主観的評価、調査書が悪ければ挽回は一生不可能

和田秀樹 精神科医

朝の全校集会について説明する広島県府中町立府中緑ケ丘中学校の坂元弘校長=2016年3月9日、広島県府中町朝の全校集会について説明する広島県府中町立府中緑ケ丘中学校の坂元弘校長=2016年3月9日、広島県府中町
 広島県府中町の町立中学3年の男子生徒が昨年12月、自殺した誘因が別の生徒の万引きをこの生徒のものと誤記された資料をもとに、担任教師がこの生徒に志望の高校に推薦できないと告げたことだということが明らかになり、大きな波紋を生んでいる。

  この生徒の場合は、推薦入学を希望していたようだが、高校入試の場合は、以前から調査書(いわゆる内申書)の評点が重視されている。以前であれば、課外活動などの評価が記載されるにせよ、主要科目については、中間試験、期末試験などのペーパーテスト学力をもとに評価が与えられていた(内申点をつけられた)。

  ところが、1993年ごろから観点別評価というのが始まり、ペーパーテスト学力は主に「知識・理解」を評価するものとされ、教室内での「関心・意欲・態度」や実験室などでの「技能」などを教師が総合的に判断して評価を与えることになった。教師が「関心・意欲・態度」や「思考・判断・表現」に難があると判断すれば、中間試験や期末試験で常に100点を取っていても、5段階評価の3などという評点がつくこともあり得るようになったのだ。

  この観点別評価が始まったとたんに、小学生や高校生では大きな変化がないのに、中学生だけは、生徒間暴力や校内暴力が増え、不登校も大きく増えた。

  生徒にとって教師の目を四六時中気にしなくてはいけないストレスのほうが、ペーパーテスト対策の勉強をするストレスより大きなものだったことが示唆される数字である。

  自殺したこの生徒でなくても、通常の多くの中学生が教師の主観的判断で、進路を決められると考えている。万引きの濡れ衣のような客観的にわかる誤った評価もさることながら、教師がなんらかの形で誤解したり、ある生徒に不快感をもった場合、不本意な進路を強いられる。

  ペーパーテストの得点が低ければ、自分が行きたい学校にいけなくても、教師が恣意的な評価をしたと思いにくいだろうが、ペーパーテストで高得点をとり、頑張っている生徒ほど、そういう事態に気づきやすいだろう。生徒の側からすると人間性のようなものを否定されるわけだから、その傷つきは容易に想像できる。

  さて、以前も批判した中央教育審議会の大学入試改革案であるが、この改革案では、知識偏重型のペーパーテスト学力を実質的に否定し、高校の調査書を活用するように明示されている。観点別評価は今でも続いているから、中学生だけでなく、高校生にも教師の目を常に気にすることを強いることになる。

  以前、バスケットボール部に所属していた大阪の高校生が体罰を受け続けて自殺した事件があったが、体罰を受けてでも、その部を続けざるを得なかったのは、やめることでスポーツ推薦による大学進学を断念せざるを得ないという背景があると報じられた。

  教師に気に入られないといけないというストレスは、

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