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[2]不十分な可能性がある原子力規制委の新基準

日本の電力会社、政治家、官僚、専門家に欠けていた原発に関する危機管理能力

瀬木比呂志 明治大法科大学院教授

爆発後の福島第一原発3号機の原子炉建屋=2011年3月15日、東京電力提供拡大爆発後の福島第一原発3号機の原子炉建屋=2011年3月15日、東京電力提供
  原発に関しては、推進派、反対派などといった形の議論分類がなされることが多い。しかし、私は、本来、このような議論分類をすること自体がおかしいのではないかと考えている。
原発訴訟に関する唯一の重要な論点は、「当該原発につき過酷事故、シヴィアアクシデント(炉心溶融や原子炉格納容器の破損に至る事故)の可能性がほぼありえず、ほぼ確実に安全であるといえるか否か」に尽きる。私も含め、福島第一原発事故までは原発の安全神話を鵜呑みにさせられていた国民の多数派は、裁判所が、客観的な第三者として原発の安全性を厳密に審査し、社会における危険制御、フェイルセイフの機能をきちんと果たしてくれるか否かを見守っている。私は、少なくともそのように考えている。

 原発推進派といわれる人々の意見に私が疑問を感じるのは、まず、「ともかく原発の再稼働はすみやかに推し進めるべき」という前提があって、そこからすべての意見が演繹されているのではないかという疑いが濃厚だからである。

 私自身も、福島第一原発事故以前には、正直にいえば、まさか日本であのような事故が起こるとは考えていなかった。しかし、実際にそれは起こったのである。

 また、福島第一原発事故に際して、近藤駿介原子力委員会委員長(当時)が作成した「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」、いわゆる「最悪シナリオ」によれば、1号機の格納容器内水素爆発によるその決定的破損に始まる最悪事態の発生時には、福島第一原発から半径170キロメートル(仙台、水戸等を含む)が、土壌中の放射性セシウムが1平方メートル当たり148万ベクレル以上というチェルノブイリ事故の強制移住基準地域になり、半径250キロメートル(東京を含む)が、住民が移住を希望した場合にはそれを認めるべき汚染地域になると試算されていたことも、紛れもない事実である。

 「ニッポン」(155頁)でも述べたとおり、数十年にわたって首都圏に人が住めなくなるという過去に全く例のない「日本崩壊」の可能性は、現実に厳然として存在したのである。

  さらに付け加えれば、前記のような格納容器の決定的破損は2号機についても起こりえた。これは、事故の過程について最も綿密な調査を行ったと思われる書物であるNHKスペシャル『メルトダウン』取材班『メルトダウン連鎖の真相』〔講談社〕の202頁に「吉田以下、免震棟に残った幹部たちは2号機の格納容器が決定的に壊れたわけではないと判断した。しかし、なぜ、格納容器が決定的に壊れなかったのか。その理由は誰にもわからなかった」という記述があることからも明らかである。

  同様に、4号機の燃料プールについても、全交流電源喪失(ステイション・ブラックアウト。非常用ディーゼル発電機等も使用不能となり、原発にすべての交流電源を供給できなくなる事態)以降5日間にわたって、燃料プールの水温が上昇し続けるのを防ぐ手段が全くなかったにもかかわらず、定期検査中の特殊な状況が幸いしてプールに一定の水位が保たれていたために使用済み燃料が空だきされることはなかったというのが事実なのである(同書222頁、231頁。222頁には、「運が良かったとしか言いようがない現象に救われたのだった」との記述がある)。

 すなわち、4号機についても、使用済み燃料がむき出しになって格納容器決定的破損の場合と同様の結果が生じる可能性があったということだ。

  つまり、簡単にいえば、東北地方から東関東居住者、また、私を含む東京周辺地区居住者が現在そこに住んで普通の生活を営んでいられるという事態は、以上のような偶然の結果にすぎないのである。

  また、福島第一原発事故によって ・・・続きを読む
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筆者

瀬木比呂志

瀬木比呂志(せぎ・ひろし) 明治大法科大学院教授

1954年名古屋市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。裁判官として東京地裁、最高裁などに勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年から現職。専攻は民事訴訟法。著書に『絶望の裁判所』『リベラルアーツの学び方』『民事訴訟の本質と諸相』など多数。15年、著書『ニッポンの裁判』で第2回城山三郎賞を受賞。

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