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死の前、それぞれの思い

野の花診療所からのリポート

徳永進 野の花診療所医師、ノンフィクション作家

☆12.タイヤ屋さん

病人を見守る、病室のスタンドと八朔(はっさく)拡大

 人はいろんな場所で死を迎える。

 郊外の、全国チェーン店が並ぶ通りに、大きな倉庫風の建物がある。車のタイヤが積み上げてある。吹き抜けに間仕切りがしてあり、その一角に簡易ベッドが置かれている。

 そこに83歳の女性が寝ている。多発の転移が肝臓にある。原発は膀胱癌。50km離れた県中部の町の病院から、息子さんが引き連れてきた。胸水が溜まり、息は苦しい。点滴も量を控えないと、下肢の浮腫や胸水が増加する。

 回転寿司屋、パチンコ店、牛丼屋、そして仏具屋もある。店兼住居だが、風呂は見当たらない。患者さんにとって懐かしいわが家でもない。息子にも何か事情があってのことらしい。日に日に顔色は悪くなる。手足の色も。

 「風呂へ入れたい」「腹が張る」「体がむくむ」「吐いた」、などと電話が鳴り、訪問看護師は頻繁に呼ばれる。朝も夜も。

 2月は来る日も来る日も重症者が出没する。夜の10時、タイヤ屋の吹き抜けの、別の一角で息子さんに「その時が近づいている」、「何か希望されることはあるか?」などと尋ねる。いよいよの時が来ているようだ。

 死が来たのは2日24月、午前2時50分。息子の経営するタイヤ屋の、片隅に帰って4日目。寒い冬の日、路面凍てつく。空に冬の星座たち。

国道沿いの一角にタイヤ屋さんはあった拡大国道沿いの一角にタイヤ屋さんはあった

☆13.がんと認知症

 高齢者人口は増えていく。日本の、65歳以上の割合は、1950年が4.9%で、2015年で26%。高齢化と共に、当然人々ががんを抱えることは増え、認知症となって行くことも増えていく。2025年の認知症人口は700万人を超えると予想され、5人にひとりは認知症となる社会を迎える。

 81歳の女性が胃がんの末期で入院となった。アルツハイマー型認知症もあった。

 近年とみにがんと認知症をあわせ持つ人の紹介は多い。統計はすでにそのことを予想していたが、医療現場にいてもそのことを実感するようになった。

 女性には、二人の娘さんがあった。ひとりは若いころから精神を病み、その娘さんとの二人暮らしだった。胸水が両肺に溜まり、嚥下が難しくなって、次第にやせていった。

 自然な衰弱に映った。前日に82歳の誕生日を迎えた。誕生日が来たこと、ご本人は分からなかった。亡くなったのは入院して21病日目の、2月25日、午前4時30分。二人の娘さんに看取られた。

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筆者

徳永進

徳永進(とくなが・すすむ) 野の花診療所医師、ノンフィクション作家

1948年、鳥取県に生まれる。京都大学医学部を卒業。京都、大阪の病院・診療所を経て、1978年から鳥取赤十字病院の内科医に。2001年12月、鳥取市内にてホスピスケアのある有床診療所「野の花診療所」を始める。今年で15年目となる。1982年『死の中の笑(え)み』(ゆみる出版)で、第4回講談社ノンフィクション賞を受賞。1992年、第1回若月賞(独自の信念で地域医療をしている人に贈られる)を受賞。著書には『隔離』(ゆみる出版)、『死ぬのは、こわい?』(イースト・プレス)、『詩と死をむすぶもの』谷川俊太郎さんとの共著(朝日文庫)、『野の花ホスピスだより』(新潮社)、『こんなときどうする?』『野の花あったか話』(岩波書店)、『ケアの宛先』(雲母書房)、『在宅ホスピスノート』(講談社)、『団塊69』(佼成出版社)などがある。

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