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GPS利用捜査の規制はどうあるべきか

早急に立法措置の検討を

指宿信

Ⅰ 私たちの暮らしに深く浸透した位置情報サービス

GPS捜査拡大GPS捜査の手法
 私たちの暮らしは今や、位置情報サービスを抜きにしては考えられない。車を運転する人は初めての街でも、カーナビのお世話で迷わず最短ルートで目的地にたどり着くことができるし、スマホやタブレットの地図アプリは目的地だけでなく、その周囲のお店やコンビニなどの情報まで提供してくれる。自分の位置情報は自分の現在地を知るためだけでなく様々な情報の探索にあたって欠かせない。

 だが、そうした位置情報は便利な面ばかりでなく、負の側面も併せ持っている。例えば次の二つの例を見てみたい。

 (事例1)Xは別れた彼女のことが忘れられなかった。そこで彼女のアパートに行き、駐輪場に置いてあった彼女の自転車のサドルの裏にレンタルしたGPS発信装置を取り付け、いつどこに彼女が行ったのか数カ月にわたって位置情報を記録し続けた。ある日、彼女は自転車がパンクしたので自転車店に自分の自転車を持って行った。店員がサドルの裏に手のひらに乗るような小型のGPS発信装置が取り付けられていると教え、警察に届けたほうがいいのではないかと助言した。彼女は警察に相談した。

 (事例2)Yは妻が浮気をしているのではないかと疑った。そこで、レンタルしたGPS発信装置を妻の車の底側に取り付けて、数カ月にわたって位置情報を記録し続けた。ある日、車庫入れの際に車両に傷を作ってしまったため、妻は自動車修理工場に車を持っていったところ、工員がGPS発信装置らしきものが底に取り付けられていたと妻にそれを渡した。妻は自分の行動確認をしていたのが、夫か夫が依頼した探偵事務所ではないかと疑い、警察に相談した。

Ⅱ 捜査手法の規律について分かれる裁判所の判断

 Xの元彼女もYの妻も、自分の位置情報が無断で取得されていることに直感的に不審を抱いた。言うまでもなく、人がいつどこに居たかという情報はプライバシーに属する事柄である。たとえそれが公道上を走る自転車や自動車であったとしても、自分がどこを通ってどの場所に立ち寄って移動したかという情報を、人には無断で知られたくないと感じるのは自然な感情だろう。

 総務省から出されている『電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン』でも、利用者が使っている通信機器が取得している位置情報につき「通信の秘密に準じて強く保護することが適当である」と解説されており、通信事業者は第三者に位置情報を提供することが禁じられている(違法性を阻却できる場合を除く)。ただし、2015年6月に行われたガイドライン改正によって、それ以前に定められていた位置情報取得前の本人告知が廃止された。

 他方で、GPS発信装置の場合は、装置をリースする企業はその利用目的を制御する役割を負っていない。GPS発信装置を入手した者はこれを自由に取り付けて位置情報を取得することができる。だが、現在日本には人の位置情報を取得すること自体を直接規制する法律はない。

 では、XやYは何の罪にも問われないだろうか。そうではない。現状では、Xのような行為はストーカー規制法違反で、Yのような行為は不正指令電磁的記録供用罪で、それぞれ起訴されることになっている。

 ここからが本題である。

 もしも、捜査機関がXやYと同じように誰かの位置情報を長期間にわたって取得したいと考えた場合、相手方の承諾なくGPS発信装置を取り付けて連日間断なく位置情報を取り続けることが許されるのだろうか。

 2006年に警察庁が定めた「移動追跡装置運用要領」という内規によれば、捜査対象者やその関係者の有する車両等に必要と思う範囲で必要と思う期間、GPS発信装置を設置して位置情報を取得することができるとしており、現在のところ警察は裁判所の許可は必要ないという考えに立っている。こうした考えに基づき、位置情報取得捜査はすでに全国で広く実施されてきている。

 しかし、今、日本の裁判所ではこうした捜査手法を規律すべきか否かについて考え方が分かれている。大阪高裁では今年の3月、窃盗行為を繰り返していた容疑でGPS発信装置を6カ月以上にわたって合計19台の車両に取り付けていた事案について、「違法」と判断した一審の判断を覆し、「必ずしも違法ではない」として公道上を車両が走っているのを目視で監視するのと同一視できるという位置付けが示された。7月には広島高裁でも適法判断が示されている。

 他方で、名古屋高裁は今年の6月、3カ月半の間に1600回以上も位置情報を取得した捜査機関によるGPS発信装置の利用についてこれを「違法」と判断しただけでなく、現在の令状制度では十分な規制と言えない可能性があるとして立法措置を促す異例のコメントを付け、注目を集めた。

Ⅲ アメリカの事例は?

 海外ではどうなっているだろうか。

 アメリカでは、2012年にFBIが行ったGPSを承諾なく車両に取り付けて位置情報を取得した行為が「捜索」に該当するか否かが争われたジョーンズ事件において、合衆国最高裁判所はその理由付けは別れたものの、全員一致の意見で令状を必要とする捜索にあたるとの判断を示した。そのため多くの州で位置情報取得にあたって必要な令状の様式について法律を作り始めている。

 確かに、容疑者に対してこれから位置情報を取得することを告知すると手がかりを得られなくなる。その意味で ・・・続きを読む
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筆者

指宿信

指宿信(いぶすき・まこと) 成城大学法学部教授

1959年生まれ。鹿児島大学法文学部教授、立命館大学法科大学院教授を経て現職。情報ネットワーク法学会副理事長、法と心理学会副理事長等を歴任。近著として『証拠開示と公正な裁判〔増補版〕』、『被疑者取調べ録画の最前線』、編著監修として『えん罪原因を調査せよ!』、訳書として『とらわれた二人──無実の囚人と誤った目撃証人の物語』等、監訳書として『無実を探せ!イノセンス・プロジェクト』、『アメリカ捜査法』等がある。