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リオ五輪を揺るがすロシアのドーピング問題

プーチン大統領の批判招いたスポーツ機関の異なる判断、より注目集まる東京五輪

増島みどり

  7月27日、モスクワのクレムリンで行われたリオデジャネイロ五輪ロシア選手団の壮行会に、問題の全てが凝縮されていたのではないか。

  プーチン大統領は冒頭に語気を荒らげて「反ロシア、そしてロシア選手への世界的キャンペーンは二重基準の欺瞞に満ち、常識の範囲を超えた(攻撃)ものだ」とスピーチ。続いて、不出場にもかかわらず選手と同じ公式スーツを着た女子棒高跳びの世界記録(5メートル6センチ)保持者、エレナ・イシンバエワ(34)が、「何一つ証拠がないまま参加を拒否された。涙が止まらない」と、頬につたわる涙をぬぐいながらロシアスポーツ界が無実の罪を着せられたと訴えた。

  スポーツ界への絶大な影響力を誇る大統領、同時に人気と実力を兼ね備えた女性トップアスリートの涙。彼らは、この映像を世界へのアピールに効果的と考え打ち合わせしたであろう。しかしこの寸劇の筋書きが、そもそもおかしい。

 2014年、ロシアの女子陸上選手とその夫の告発によって始まったロシアのドーピング問題は、すでにWADA(世界アンチドーピング機関)、CAS(スポーツ仲裁裁判所)によって「国家ぐるみ」「組織的不正」が事実として認定されている。告発者の中距離選手ステパノワと、検査機関に勤務した経験を持つ夫の2人が「命がけで」(居場所を明かさない夫婦のコメント)告発した内容は、もちろん噂話を誰かに漏らしたといったレベルの内容ではない。

  WADAが設置した独立調査委員会の報告書は、抜き打ち検査を逃れ、試合日の検査を逃れ、さらに陽性反応のあった尿検体を大量に破棄し、不正のテーブルの下で賄賂が渦巻いた様子が記される。

  こうした現実を認識すれば、イシンバエワが怒りをぶつける相手は、国家不正の疑惑に対し、「あくまで個人の問題だ」とやり過ごした隣のプーチン大統領ではないか。イシンバエワら選手の努力を踏みにじったのは、反ロシアキャンペーンではなく、犯罪に手を染めた関係者たちである。国家ぐるみの犯罪がいつしか、「無実の個人を締めだした、反ロシアキャンペーン」にすり替えられた事態に、オリンピック、スポーツ界が抱える問題が浮かびあがる。

記者会見でロシアの処分継続を発表する国際陸連のセバスチャン・コー会長(左)と作業部会のリーダーのルネ・アンデルセン氏=2016年6月17日、ウイーン拡大記者会見でロシアの処分継続を発表する国際陸連のセバスチャン・コー会長(左)と作業部会のリーダーのルネ・アンデルセン氏=2016年6月17日、ウイーン

  2018年に、悲願だったサッカーW杯を開催するスポーツ大国は、13年に学生の五輪・ユニバーシアード、世界陸上、14年には大統領が招致スピーチを行って呼び寄せたソチ冬季五輪を開催。昨年も水泳、そして「ロシアを排除せず」と決定を下したIOC(国際オリンピック委員会)バッハ会長の出身競技でもあるフェンシングの世界選手権を開催した実績を誇り、各競技団体がロシアにNOを突き付けるのは難しい関係だ。もちろんIOCにさえ。今回のいびつな決着のカギを握ったのは、大統領であり政治だった。

IOC、CAS、WADAという三者のねじれ構造

 全面除外をせず、とIOCが発表した後、ある声明が出された。国家に対して反旗を翻したのは、ロシア・パラリンピック委員会のウラジミール・ルーキン会長だった。

 「人でなしの犯罪集団 ・・・続きを読む
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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

スポーツライター。1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

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