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18歳選挙権時代における「政治的中立性」の扱い

自民党による実態調査は学校現場を過度に萎縮させている

林大介 東洋大学社会学部助教、模擬選挙推進ネットワーク事務局長

 18歳の高校3年生が投票できるということで、18~19歳の投票率や投票動向、学校現場での主権者教育/政治教育に注目が集まった第24回参議院議員選挙。

 総務省が発表した18~19歳の投票率(速報値)は、18歳51.17%、19歳39.66%、小計45.45%であった。全有権者平均の54.07%よりも低かったものの、これまでの20代の投票率と比較すると高かったのは紛れもない事実であり、「18歳選挙権」効果が表れていたと言えるであろう。

林原稿につく写真玉川学園中学部・高等部で行われた模擬選挙=東京都町田市
 主権者教育のプログラムとして注目を集めている取り組みに、実際の選挙を題材にした「模擬選挙」がある。2003年の総選挙からすべての国政選挙で模擬選挙を行ってきている模擬選挙推進ネットワーク(以下、推進ネットワーク)による呼びかけ・協力による「模擬選挙2016」においては、50校を超える中学・高校・大学・NPOなどが取り組み、6000人以上もの投票があった(投票結果http://www.mogisenkyo.com/2016/07/14/865/ )。

自民党による「学校教育における政治的中立性についての実態調査」

 そうした中、自由民主党は、参議院議員通常選挙の選挙期間中である2016年6月25日(土)に、公式ウェブサイトを通じて「学校教育における政治的中立性についての実態調査」(以下 調査サイト)を開始し、7月18日(月)未明に終了した。

 この調査は、その調査名にあるように、ウェブサイトを通じて「学校教育における政治的中立を逸脱するような不適切な事例を具体的(いつ、どこで、だれが、何を、どのように)に記入」を求めるものである。

 確かに、学校教育において教員の言動が生徒・学生に与える影響を考えると、教員が「特定の政党・候補者」への「賛成・反対意見」を一方的に述べたり、生徒・学生を一定の方向に誘導していると受け取られかねないような言動をとったりすることは控えるべきである。そもそも「18歳選挙権」初の国政選挙となった今回の参院選は、学校現場がこれまで以上に「政治的中立性」を意識し、政治教育や主権者教育に慎重かつ躊躇していた。

 たとえば、参院選をテーマにした模擬選挙を行うにあたり、以下のような“過剰反応”とも言える学校現場がこれまで以上に顕在化した。

・「実在の政党名」での模擬選挙に、実施前日に学校長からストップがかかり、政策はそのままで政党名を架空のものに置き換えて実施(公立中学校)
・政党名に触れると誤解を生じるとの理由から、授業内では政党名はおろか政策について一切説明せず、「選挙公報」を配布して生徒各自に読ませるだけで模擬選挙を実施(公立高校)
・模擬選挙で投票させるが、一定期間後に、開票せずに投票用紙を破棄する(公立高校)

 また、主権者教育/政治教育を特定の教員(主に社会科教員)任せにし、関心を示さない教員が多数いるという中で、熱心な教員が孤立している学校もあった。

 このように、学校現場は「何が政治的中立なのか」について腐心している中で、教育現場を実際に見学するわけでもなく、選挙期間中に一方的にこのような調査(一部では「密告サイト」と言われているが)を行ったのはなぜなのか。

自民党は「政治的中立性」が何なのかを明確にしていない

 しかも、今回の調査においては、以下のように数回にわたって表現が変遷されている(下線および強調は筆者)。

*当初
「教育現場の中には「教育の政治的中立はありえない」、あるいは「子供たちを戦場に送るな」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実」
*修正後
「教育現場の中には「教育の政治的中立はありえない」、あるいは「安保関連法は廃止にすべき」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実です。」
*最終的
「教育現場の中には「教育の政治的中立はありえない」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実」

 当初の<「子供を戦場に送るな」と話すこと=政治的中立を逸脱している=偏向教育>という表現には多くの批判が集まり、それをうけて文章表現を修正した(2016年7月9日、BuzzFeed Japan http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160709-00010003-bfj-pol)。修正は部会長・木原稔議員の指示によるものだそうだが、

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