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『学歴社会』から『塾歴社会』へ(下)

塾歴エリートは自分たちの弱点を知っている

杉浦由美子 ノンフィクションライター

 教育関係者を多く取材してきたが、その中で、私は違和感も持った。学校や塾の関係者が、勉強が出来る子を「頭がいい」と表現するのだ。いうまでもなく、頭の良さと偏差値は正比例しない。

 私が取材で会った中で、その頭の良さに圧倒された人物が2人いる。1人は昭和女子大学の坂東眞理子学長だ。ベストセラー『女性の品格』(PHP新書)の著者としても有名だ。インタビューの中で、私がいわゆる”突っ込み”をすると、即座に論理的で完璧なコメントが返ってきた。頭の回転がいい人の多くは、中身がないことも多いが、坂東氏はそうではない。思慮深くかつ反射神経がいい人というのは、そうそういないので、私は感動した。

 もうひとり、私が頭の良さに圧倒されたのは、歌舞伎町でナンバーワンのキャバクラ嬢だった。キャバクラ嬢は「美貌を武器にするタイプと頭の良さで勝負するタイプ」がいるそうだが、彼女は後者の典型だった。クレバーで、分析力に長けていた。坂東氏は東大卒の元キャリア官僚で、偏差値エリートだが、キャバクラ嬢はそうではない。しかし、地頭が良く、クレバーで、仕事で成功をしているという点で共通している。

  つまり、偏差値や学歴に関係なく、”頭の良い人”は存在して、それは天性のものである。

  それなのに、偏差値が高い学生を一律的に「頭がいい」と表現するのは、ある種の信仰のようである。学力信仰である。

高校受験を目指し、学習塾で勉強する生徒たち=2006年、大阪府高槻市拡大高校受験を目指し、学習塾で勉強する生徒たち=2006年、大阪府高槻市
  この学力信仰を振り回す人たちは、一般的に「鼻持ちならない」といわれる。鼻持ちならないというのは、どういう時に使われる言葉か。実力ではなく、経歴や属性などを鼻にかける言動に対して、批判する時に使用されるように思う。

 たとえば、営業成績トップの女性社員が妊娠したとしよう。彼女が「私は会社に利益を与えている。子供を産んだら、会社は時短を認めろ」と主張するのは、鼻持ちならない発言ではない。しかし、ノルマすらほとんど達成できない社員が「私は東大出身のワーキングマザー。だから、会社は私を大切にすべき」といえば、同僚から「鼻持ちならない!」と批判されるだろう。

生徒を東大に入れるのは通常業務

  教育関係を取材していて、この「鼻持ちならなさ」がまったくなかったのが、鉄緑会の関係者と、20代の若き塾歴エリートたちだった。鉄緑会の教員は、尊敬できる人たちだった。少しもスノッブなところがなく、生徒を東大に入れることに特別の意味を持っていないように感じた。彼らからしたら、東大や国立医学部に生徒を入れるのは「通常業務」なのだから。

  鉄緑会に入れば、「東大や国立医学部に入るのは普通のこと。だからクリアしないと」という感覚をもてる。それが大きなメリットだろう。

  東大出身で現在外資系企業に勤める20代後半の男性はこう話す。彼は地方の公立高校から東大に進学した。学生時代には、東大の同級生で鉄緑会出身者と交際していた。

  「彼女が泣いて僕に怒るんですよ。”東大受験をクリアしただけで、 ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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