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検索結果の削除で判断基準を示した最高裁決定

「忘れられる権利」についてオープンな議論を続けていくことが必要

宮下紘

1. 最高裁判所の決定の判断要素

 平成29年1月31日、最高裁判所第三小法廷が、検索エンジンの検索結果の削除に関する判断を示しました。約5年前の児童買春の逮捕報道の検索結果の削除を求めた事案において、「今なお公共の利害に関する事項」であるとして、削除を認めませんでした。

 本決定では、プライバシーに属する「事実を公表されない法的利益と…URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべき」としました。

 インターネット以外の場面における表現の自由とプライバシー保護とのバランスを図った先例に基づく判断だと言うことができます。

 本決定は,比較較量の判断要素として6つ―①当該事実の性質及び内容、②当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、③その者の社会的地位や影響力、④上記記事等の目的や意義、⑤上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、⑥上記記事等において当該事実を記載する必要性―をあげました。

 この6要素は、表にまとめたとおり、週刊誌が仮名を用いて少年犯罪を報道した長良川事件報道訴訟(最判平成15年3月14日)において示されたものとほぼ同じです。 

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 このことは、最高裁が、オンラインとオフラインにおけるプライバシー侵害の態様について区別をせず、判断したとも受け止めることができます。

2.比較衡量における「明らかな場合」

 長良川事件報道訴訟において,「プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立」することを最高裁は認めてきました。

拡大会見で記者の質問に答える申立人の代理人の神田知宏弁護士=東京・霞が関
 ところが、本決定では、プライバシーの法的利益が検索事業者の表現行為に優越することが「明らかな」場合に削除ができるとして、長良川事件報道訴訟などの先例にはなかった「明らかな」という要件を設けました。

 この「明らかな」場合という要件により、インターネットの世界の方が紙媒体の世界よりも情報の削除を認めにくくしたとも解釈することができそうです。

 そもそもプライバシーの利益が検索事業者の表現行為に優越することが「明らかな」事例は、検索事業者への要請の時点でそのような情報は削除されるのであって、プライバシー侵害が「明らかな」事例が裁判所で争われることは極めてまれでしょう。もしかしたら、膨大な量の検索結果の削除の可否が検索事業者に寄せられてきたEUの事情を踏まえ、最高裁は「明らかな」という要件を設けたことで、検索結果の削除に関する訴訟の乱立を防止したかったのかもしれません。

 いずれにしても、情報が消えることなく半永続的に残され、容易に検索されうるインターネットの世界と、新聞や週刊誌等における紙媒体の世界における情報流通を同等に扱ってよいものなのか、今後も議論になりそうです。

3.検索事業者による表現行為

 EUでは人間の「尊厳」の理念に基づき、「忘れられる権利」を明文化したデータ保護規則が2016年4月に成立しました。さらに、2014年5月には、 ・・・続きを読む
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筆者

宮下紘

宮下紘(みやした・ひろし) 中央大学総合政策学部准教授

一橋大学大学院法学研究科修了、博士(法学)、ハーバード大学ロースクール客員研究員などを経て現職。著書に、『ビッグデータの支配とプライバシーの危機』(集英社・2017近刊),『事例で学ぶプライバシー』(朝陽会・2016),『プライバシー権の復権』(中央大学出版部・2015),『ネット社会と忘れられる権利』(共著)(現代人文社・2015)など。忘れられる権利については、「ビッグデータ時代の「忘れられる権利」―プライバシー保護に日本なりの哲学を」Journalism290号(2014)、「忘れられる権利と検索エンジンの法的責任」比較法雑誌50巻1号(2016)など。判例時報2318号(2017年3月11日)に「忘れられる権利」と「忘れられる権利補遺」が掲載される予定ですので、ご覧いただけますと幸いです。