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虐待の防止に役立っていない、現状の児童相談所

虐待対応専門の組織に児童相談所を作り直すことが必要だ

山脇由貴子 家族問題カウンセラー

 現状の児童相談所は、虐待の防止・抑止に役立ってはいない。その理由は、現状の児童相談所には虐待の防止・抑止機能がないからだ。もちろん、虐待が疑われる情報が入れば調査はする。しかし調査とは保育園や学校などの子どもの所属先に「変わった様子はないか」と電話で問い合わせるだけだ。そして、子どもの泣き声や怒鳴り声通報が入れば家庭訪問はするが、その内容は、玄関先での数分の立ち話の中で、子どもの様子を見る、という表面的なものに過ぎない。

拡大資料をめくりながら保護者と話をする児童福祉司
 そしてそもそも、大半の児童相談所の職員は、虐待を防止・抑止する方法を知らない。虐待している親に、どうすれば虐待を止めさせられるのかも知らない。多くの児童相談所職員が「次に虐待したら子どもを保護する」と脅すか、「虐待は法律で禁じられている」と伝えることしか出来ていない。虐待をしてしまっている親でも、多くの親は子どもを保護されたくないと思う。しかし虐待を止めなくてはならない、納得できる理由は説明されていない。だから親たちは、虐待が発覚しないように考えるようになり、虐待がさらに見えなくなる。虐待にまでは至っていないが、子どもの泣き声で通報されてしまった親は、子どもの泣き声に敏感になり、通報されないように、と子どもの口をふさいでしまったりする。児童相談所が虐待を防ぐどころか、虐待を誘発しかねないのが現状なのである。

 そして児童相談所の職員であっても、なぜ虐待してはいけないのか、虐待を受けた子どもの生涯にわたるダメージを理解出来ていない人間も多数いるのだ。

 現状の児童相談所が認識している役割は、あくまで虐待している親を取り締まる事、虐待されている子どもを保護する事であり、防止・抑止機能を想定していない。そして児童相談所が虐待の防止・抑止のために具体的に行っていることと言えば、児童虐待防止推進月間に、児童相談所職員が駅前などで、チラシやティッシュを配る、というキャンペーンくらいだ。

児童相談所の構造的問題

 一番簡単で分かりやすい構造的問題は、児童相談所が虐待の専門機関ではない、ということである。児童相談所は原則、0歳から18歳未満の子どもの相談は全て受けなくてはならない。当然、虐待だけを扱っている訳にはいかず、時間が足りない、人手が足りない、という問題が起こる。

児童相談所は公務員の異動先の一つにすぎない

 そして一般にはあまり知られていない問題としては、児童相談所は、各都道府県、政令指定都市の職員つまりは公務員の異動先の一つに過ぎない、ということである。専門家ではなく、虐待どころか、児童・福祉関する知識が全くなく、相談業務の経験など全くない、完全な事務職が児童相談所に配属され、児童福祉司、という専門家として働く場合もあるのだ。中には、新卒の職員もいる。そして、公務員なので、配属された職員は仕事を覚えた数年後には異動で児童相談所を離れて行き、新しい職員がやって来る。さらに言えば、全国共通の問題ではないが、児童相談所が各都道府県、都市の職員にとって、「最も働きたくない職場」である地域は少なくない。その状況は何ら改善されないまま、児童相談所の職員増員だけが叫ばれ続けている。

 さらなる構造上の問題は、児童相談所は親の意志に反して子どもを保護する権限を持つが、虐待した親を罰する権限は持たない。虐待している親を取り締まることが重要な役割であるにもかかわらず、出来ることは、「指導」だけである。その指導の内容は、前に述べた家庭訪問と同様「虐待してはいけない」と親に繰り返し言うだけだ。警察に逮捕されない限り、親は子どもを虐待しても、何の罰も受けないのだ。何の罰も受けない上に、「虐待してはいけない」と言われ続けるだけなのが、虐待の再発を抑止することにならないことは誰にでもわかることだ。

 児童相談所は警察組織ではないのだから、親を罰する権限を持たないのは仕方がないにせよ、本来の加害被害の関係で考えれば、被害者である子どもが家から離れて、不慣れな場所で不自由な生活をしなければならないのに、加害者である親は、今まで通りのごく普通の生活を送る訳である。子どもにとっては納得の行かない事態であり、考えられない話である。

 そして児童相談所は子どもを保護した後は、親への指導を繰り返すのと並行し、家族が再び一緒に生活できることを目指し、今度は親との信頼関係を結ばなくてはならない。親にすれば、無理やり子どもを奪っていった組織の人間が、今度は「さあ、これからは協力してゆきましょう」「お子さんのために仲良くしてゆきましょう」と言い出すのだ。到底、無理な話である。

一時保護所は多くの子どもにとって苦痛な場所

 一時保護所の問題も大きい。保護が必要な子どもを児童相談所が一時的に預かる場所である一時保護所は、多くの子どもにとって苦痛でしかない場所である。携帯電話どころか私物は一切持ち込めない。学校も行かれず、外にも出られない。通信は制限され、保護されている間、会って話が出来るのは原則児童相談所の職員だけである。生活は細かなルールによって決められており、私語すらも禁止、自由時間はほとんどない。そして現状の一時保護所には子どもの心のダメージに対するケアが成されていない。一時保護所では子どもの心の傷は癒やされることはなく、逆に、一時保護所に入った事がトラウマになる子どももいる。

 一度一時保護所に入った子どもは「保護所には2度と行きたくない」と思い、親に虐待されていた子どもすらも、「保護所にいるくらいなら家に帰る」と決断する。親に叩かれるのなんて、慣れているのだから自分が我慢すればよい、ここにいるよりはましだ、と言って家に帰るのだ。子どもは、再び虐待を受けても、一時保護所に行きたくないから、と児童相談所に助けを求めようとは思わない。結果、児童相談所は子どもを虐待から守れないのだ。

 また、相模原市児童相談所事件で世間に知られたように、子どもが「保護して欲しい」と訴えても、児童相談所が「保護する必要はない」と判断すれば、助けを求める子どもの必死の訴えさえも無視されてしまうことも起こっている。結果、相模原市児童相談所の事件の子どもは、自殺してしまった。児童相談所が子どもを保護しない、その大きな理由の一つは、一時保護所が恒常的に定員超であり、子どもを保護出来る場所がないからだ。一時保護所の不足も、児童相談所が抱える大きな問題である。

 児童相談所が関われる子どもの年齢が18歳未満、というのも大きな問題だ。18歳を超えてしまうと、 ・・・続きを読む
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筆者

山脇由貴子

山脇由貴子(やまわき・ゆきこ) 家族問題カウンセラー

東京都出身。横浜市立大学文理学部心理学専攻卒。東京都に心理職として入都。福祉園勤務を経て、都内児童相談所に児童心理司として19年間勤務。2015年「山脇 由貴子 心理オフィス」解説。著書『教室の悪魔』『震える学校』(共にポプラ社)、『モンスターペアレントの正体』(中央法規出版)『友だち不信社会』(PHP新書)『あなたを困らせる社内の病的人格者たち』(講談社)、『告発 児童相談所が子供を殺す』(文春新書)、他。