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『下剋上受験』中卒父と娘が桜蔭を目指す(中)

灘→東大理Ⅲの佐藤ママにはできない本音炸裂、エリートは憲法などを語らない

杉浦由美子

 前回に引き続き、『下剋上受験』(桜井信一著・産経新聞出版)の話をしよう。この本は元々自費出版されたものが編集者の目にとまり、商業ベースで再度出版され、ベストセラーになって、ドラマ化された。この本自体が下克上したのだ。

 本書の魅力はいろいろあるが、最も大きい要因として、父親が本音しか言わない点だ。彼はストレートに、娘をエリートにしたい。だから勉強させて東大などの難関大学に入れたい。そのためにまず中学受験の最難関、桜蔭に入れたいと言う。

 「娘をエリートにしたい」と堂々と言うには資格が必要だ。この父親が中卒で転職を繰り返し、辛い思いをしてきたという身の上話があるから許される。自分の境遇を否定しているからだ。桜井信一の私小説風の語り口だと自虐的にさえ感じられる。

“息子3人灘→東大理Ⅲ”の佐藤亮子さんへの疑問

息子3人が東大理Ⅲに合格し、子育て術が話題を呼ぶ佐藤亮子さん=2015年11月30日、奈良市の自宅拡大息子3人が東大理Ⅲに合格し、子育て術が話題を呼ぶ佐藤亮子さん=2015年11月30日、奈良市の自宅
 『下剋上受験』以外で、昨今、親の受験体験記で話題になったのは、この欄でも取り上げた“息子3人を東大理Ⅲに進学させた奈良のゴッドマザー”佐藤亮子の著作だ。佐藤ママは子どもに勉強させる理由を「息子をエリートにしたいから」とは言わない。

 いや、言うことが出来ないのだ。東大卒の弁護士を夫に持ち、自身も津田塾大学を出て教師をしていた彼女が「子どもをエリートにしたい」と言えば、「なんだよ、自分たちの階級を、子どもに継承させたいってわけかよ」と反発されるからだ。

 そのため、佐藤ママは子どもたちに鞭を振るって勉強させた理由をこう書く。

  “勉強するのは、人としてより豊かに生きていくためだと、再三話して聞かせていました。美しい母国語が話せて、憲法について意見が交わせて、道端に咲く野花について語れる。そんな日々は、とても楽しいはずです”(『受験は母親が9割 灘→東大理Ⅲに3兄弟が合格!』)

エリートは憲法など語らない

  前時代的なインテリ像である。少なくとも私はそういうインテリなど漫画の中でしか見たことがない。少なくとも、2017年の東大上位層には“そんなやつはいない”である。

  以前の記事で、東大生のすべてがエリートではないと述べた。では、東大の中でも上位層というのは ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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