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『下剋上受験』中卒父と娘が桜蔭を目指す(下)

東大二世女子が“後ろめたさ”を感じるのはなぜか

杉浦由美子 ノンフィクションライター

トップ校では、親の学歴がないことがステイタス

 中卒の父親が娘をエリートにしたいという願いから、中学受験最難関の桜蔭学園に合格させようとした体験記『下剋上受験』(産経新聞出版)がドラマ化された。ドラマでは「最難関偏差値72桜葉学園」とアレンジしているが、原作では桜蔭学園を目指したと明記されている。桜蔭は女子校には珍しく理系に強いので、医学部に進学する生徒も多く、現在は医師の娘が多くなっている。また、父親や母親が東大出身という生徒も多い。

  その一方で注目すべきは、この学校の特徴は決してお嬢様校ではないという点だ。

  だから、桜蔭→東大→エリート職種(外資系コンサルタントや大手IT企業勤務など)という経歴の女性たちは、こちらが訊いてもないのに、「うちの両親は大学を出てないし」「親は学歴がない」と話し出す。とても誇らしげに言うのだ。

  ある桜蔭出身者は進路を考えている時に、親に相談すると、「そうだなー。お父さんがもし勉強ができたらなりかった仕事はー、お医者さんとかー?!」と言われたが、自分自身は子供の頃から病院が苦手だったので、諦めてもらい、東大文系に進んだと話した。

  彼女たちはなぜ親の学歴がないことを話すのか。それはこういう気持ちなのだろう。

  「同級生は親も高学歴だ。ああいうお膳立てされた秀才とは私は違う。自分の資質や能力でここまで成り上がってきた」

  この感覚は他の難関私立中高一貫女子校にはない感覚だろう。どこもお嬢様校の側面があるからだ。しかし、桜蔭ではお嬢様は意味がない。だから、仮に『下剋上受験』の娘が桜蔭に入学していても、親が中卒ということはある種のステイタスになったろう。それが桜蔭である。

“レールに乗っただけの人生”という不安

  一方、桜蔭出身の東大二世の場合、彼女たちは親も東大であることを少し後ろめたさそうに言う。彼女たちは彼女たちで、レールに乗って、東大に入ったエリート人生に疑問を持っているのだ。幼い頃から公文やドリルをやり、小学校3年生ぐらいからサピックスに移行する。そして、すべての習い事を止め、受験勉強に集中し、桜蔭に入って、鉄緑会に通い、東大に進学する。これが東大への最短コースだが、親が用意した道を歩いてきただけではないかと感じてしまう。

  目指せ東大という桜蔭の雰囲気に飲まれていただけではないのか。もっと違う生き方があったのでは ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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