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他人の惨状を見たい欲望に応える『タラレバ娘』

“共感”と“上から目線”を感じる女性視聴者たち

杉浦由美子 ノンフィクションライター

「見たくないものを見せる」からこそ人気

 『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)が話題になっているが、原作は累計330万部のベストセラーだ。ネットでも話題になっていて、『タラレバ娘』に関するネットニュースサイトの記事も多く配信されているし、リアルの空間でもファッション誌でも『タラレバ娘』に登場するファッションの特集が組まれている。なぜ、こんなに『タラレバ娘』は注目されるのか。

  講談社の担当編集者、助宗佑美(33)は毎日新聞2017年2月8日東京版夕刊で、取材を受けている。

  「助宗さんは数多くの少女漫画の編集に携わってきたが『タラレバ娘』は質的に明らかに違うと指摘する。一言で表せば『見たくないものを見せる』作品。読者は、登場人物に共鳴したり、逆に腹を立てたり。時には自らの境遇に重ねて落ち込むことも。自分との対比を『発信』したくなる内容で、それがヒットにつながっていると見る」

  担当編集者は『タラレバ娘』を今までの少女漫画とは質的に違うと指摘している。では、王道の少女漫画とはどういうものなのだろうか。それは読者が見たい“夢”を見せるものだろう。

  今クール月9ドラマの原作『突然ですが、明日結婚します』(宮園いずみ・小学館)はその典型だ。銀行総合職として成績優秀なヒロインだが、夢は結婚して専業主婦になることで、ごく普通の女の子として描かれる。凡庸な彼女が人気独身アナウンサーという“ハーフ芸能人”と恋に落ちる。読者はヒロインに感情移入し、現実にはありえない素敵な恋を疑似体験する。

ドラマ「東京タラレバ娘」に出演した榮倉奈々さん=2010年、東京都港区拡大ドラマ「東京タラレバ娘」に出演した榮倉奈々さん=2010年、東京都港区
  一方、『東京タラレバ娘』には、従来の少女漫画が描いてきた夢が欠落している。悲惨なエピソードばかりで、それのどれもがヒロインたちを幸せにはしない。ヒロインの倫子は売れない脚本家で、ふとした流れで年下のイケメンモデルとセックスをするが、それが交際には結びつかない。

  倫子の親友、香は“経済力がないから”という理由で振ったバンドマンが、成功者として目の前に現れると、未練を感じ、再び交際し出す。しかし、スターとなった彼は、モデル女性と同棲している。つまり、香はかつてのように本命の恋人にはしてもらえず、セカンド女に成り下がる。

  もう一人の親友である小雪は既婚者と報われない恋に落ちる。彼女たちはオリンピックまでに結婚したいという願いを持つが、違う方向の恋愛ばかりしてしまう。少女漫画は読者がヒロインに感情移入して読む。その前提を考えると、『タラレバ娘』たちの恋や生活は「見たくないもの」となろう。

感情移入しつつ、客観的に見下す

  しかし、少女漫画の枠を外すと「見たくないもの」は読者が「見たいもの」になるのだ。

  不況が慢性化した現在の日本では人々は自己肯定感を低くしている。そうなると、みな自分よりも下の存在を探す。 ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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