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なぜ伊勢丹はなくなってはいけない企業か(下)

官僚組織とは真逆の実力社会だからこそ、百貨店で女性は伸びていく

杉浦由美子 ノンフィクションライター

三越伊勢丹の新宿店=2017年3月7日、東京都新宿区拡大三越伊勢丹の新宿店=2017年3月7日、東京都新宿区
  前回は新宿伊勢丹の販売員たちの進化について書いた。三越伊勢丹では販売員を「スタイリスト」と呼ぶが、その肩書にふさわしい仕事をする。彼女たちは常に勉強し、客に似合う服を見立てていく。

  伊勢丹は消費者としての女性にとって大切な場所だが、女性労働者にとってもなくてはならない場所でもある。

 三越伊勢丹の女性従業員の約半数が契約社員だ。売り場の管理職を契約社員がつとめているケースも多数ある。

  伊勢丹の元契約社員がいう。彼女は新卒で入った小売業の正社員を経て、伊勢丹の月給制契約社員になった。

 「上昇志向がある女の子には夢のような場所ですよ。学歴やコネクションがなくても、丈夫な身体さえあれば後は努力次第。頑張れば頑張るほど上に行ける。そんな職場って滅多にないでしょう」

  なぜ、“頑張れば頑張るほど上に行ける”かといえば、百貨店は売り上げ至上主義だからだ。

  官僚組織ならば、成果が出せなくても、理論的に言い訳できればそれがまかり通る。数字よりも理屈が優先されるからだ。だから、中央官庁では東大を出た男性が一番上で、女性はキャリアが積みにくい。

  一方、百貨店は、商品を顧客に売るビジネスなので、理屈なんていっていても評価されない。売り上げをあげた人間に発言権が与えられる。社長人事も担当部署の売り上げが反映される。

  大西洋・前社長が就任した時に「意外」と報じられたが、それは伊勢丹でエリートコースは婦人服畑で、大西前社長は紳士服畑出身だったからだ。新宿伊勢丹の紳士服専門館が成功して、紳士服畑の売り上げが増え、その象徴としての大西社長誕生にも見えた。そして、杉江俊彦・新社長は食品畑出身だ。伊勢丹の食品部門の好調さを示すように見える。

  契約社員で入社しても、売り上げをあげれば評価される。契約社員でも管理職にもなれ、総合職になるチャンスがある。現在、400人が契約社員から総合職に転換しているという。

  つまり、なんら既得権がない女性でも、才覚や努力次第で、小売業の中では待遇がいい三越伊勢丹の総合職になれるのだ。

  契約社員の女性管理職の下に、慶応卒の男性社員が部下としてつくこともある。そうなれば、契約社員が男性総合職に厳しく叱ることもあろう。この4月から女性執行役員がふたり増える。男女差別や雇用の形態での差別が比較的少ない職場なのだ。

商社を蹴って百貨店に入ってくる

  先に官僚社会を引き合いにだしたが、似たような業種として大学教員がある。国立大学などでは教授会が男性だけというケースもまだまだある。

  なぜ、こうなってしまうのかと、社会学の研究者に聞いたことがある。するとこう返ってきた。

  「大学は組織を存続させるのが目的の職場。そういう所では男が強い。女は実力の世界でないと能力を発揮できない」

  百貨店は、何十年も前から売り上げ至上主義で、実力主義だったために、女性は能力を発揮できた。

  今も昔も慶応大学の女子学生は「商社や銀行の一般職」か「メーカーや百貨店の総合職」か ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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