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死刑判決でも報道には違和感が残る(下)

木嶋佳苗被告はシリアルキラーではない 青梅の被害者男性には愛情を持っていた

杉浦由美子 ノンフィクションライター

法廷の木嶋佳苗被告=2012年2月、さいたま地裁、絵と構成・仲澤瑞希拡大法廷の木嶋佳苗被告=2012年2月、さいたま地裁、絵と構成・仲澤瑞希
 首都圏連続不審死事件の被告、木嶋佳苗の死刑判決が決まった。さて、本人は殺人を否定しているが、確定ということで、今回は彼女が殺人を犯したという前提で検証記事を書いている。2回目の本稿では、世間の注目を集めた連続殺人事件の被告、木嶋佳苗はシリアルキラー(連続殺人者)なのか? ということについて考察したい。

連続殺人は2通り、シリアルキラーと動機がある殺人

  連続殺人を扱った小説は数多くあるが2種類ある。フィクションの世界で目立つのは、快楽を求めて殺人をするシリアルキラーだ。もう一つは、読者が読んで共感したり、納得できたりする合理的な動機による殺人だ。後者の場合、復讐や多額の遺産といった読者の理解できる動機があって、最初の殺人を犯す。しかし、それを目撃されてしまうと、発覚を恐れて目撃者を殺す……といった風に、何人もの人間をあやめていく。

  アメリカの著名な小説家、ドナルド・E・ウェストレイクの作品に『斧』(文春文庫)という小説がある。主人公は再就職に苦戦する中年男性。養うべき家族もいる。彼は自分より能力が上の候補者たちを殺せば、再就職が有利になると思い、次々にライバルを殺していく。

  この小説の主人公はシリアルキラーなのか、それとも合理的な動機のある犯人なのかという疑問を持ち、ある機会に犯罪小説に詳しい文芸評論家に質問した。すると、シリアルキラーだと説明してくれた。殺人というのはリスクが高い。発覚して逮捕されたら、一生を棒に振ることになるどころか、死刑になりかねない。そのリスクを考えたら、再就職のために連続殺人を犯すのはシリアルキラー的な発想となる。自分よりも能力が高いライバルを殺すことに快楽を見いだしているのだ。

「人を殺してもバレない」という事実

  さて、木嶋は3人の男性を殺めたことになっているが、彼女はシリアルキラーなのか。一部では「男性憎悪」といった表現も見られた。男性全体への憎しみが理由で連続殺人を犯せばシリアルキラーとなるが、やはり、現実ではそうそうありえない。

  起訴された3件の殺人事件の中で、木嶋が最初に殺人を犯したとされるのは青梅市の50代サラリーマンだった。このサラリーマンから1500万円以上の金銭を受け取っているが、検察はこれを詐欺として起訴していない。

  ようは結婚を前提に交際をしていたことを検察も認めている。相手は真面目で優良企業につとめるサラリーマンで、条件的には結婚相手として申し分はない。しかし、木嶋は急に生理的に嫌悪感を持つようになって、結婚が嫌になったと述べている。一方で結婚を前提に多額の金銭を相手から受け取っている。

  木嶋が結婚するつもりだったのは確かで、学歴を詐称していたことも被害者には正直に告白している。しかし、どうしても相手を受け入れられなくなり、結婚が嫌になって、練炭で自殺に見せかけて殺したと推測される。

  取材をしていて見えてきたのは、木嶋が被害者に対して、愛憎を持ってきたことだ。現実社会で女性が犯す殺人では、被害者は夫というケースがしばしば見受けられる。愛情があるがゆえに憎しみも増し、殺すのだ。

  愛憎から衝動的に婚約者を殺した。しかし、この青梅の事件は当初「自殺」ということで片付けられた。なぜか。それは警察が ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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