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アイドル映画でホラーが多い理由と月9の敗因

華のある大根女優の不在と地上波の息苦しさ

杉浦由美子 ノンフィクションライター

  フジテレビ月9が相変わらず不振だ。今クールの『貴族探偵』も視聴率は一桁続きだ。中山美穂、松重豊、遠藤賢一といった豪華すぎる脇役陣がうざいと叩かれると、中盤からはそれらのキャストを引っ込めるなどの迷走が続く。

  私はこのドラマをものすごく楽しみにしていた。

  原作も読んでいたし、また、脚本はミステリーを得意とする黒岩勉、そして主演は嵐の相葉雅紀。

  原作は本格ミステリーだ。本格ミステリーは謎解きの面白さがキモなので、説明的なシーンが増える。そのため、ドラマ『貴族探偵』はコメディタッチに仕上げようと試みた。相葉雅紀もあのにやけた感じは貴族にマッチしていていい。脇の生瀬勝久はいつものようにコメディの名手ぶりで盛り上げる。

  しかし、このドラマがコメディとして成立していないのは、ヒロインの武井咲が完全なミスキャストだからだ。武井咲には笑いの要素がない。若いのに眉間に縦に皺を寄せた武井咲は、ハードボイルドのシリアスな女探偵であればかっこいいだろうが、コメディには合わない。

『トリック』にあって、月9にないもの

  謎解き物でコメディの 大ヒットドラマ作品というと、2000年に放映された仲間由紀恵主演『トリック』(テレビ朝日系)がある。このドラマを成功させた立役者が演出の堤幸彦だった。彼は去年やはりコメディタッチのミステリードラマ『神の舌を持つ男』(TBS系)を手がけて、大コケしたが、その際、ヒロインの木村文乃の過剰な演技が「寒い」と批判された。

  武井や木村はコメディドラマでヒロインが演じられず、新人女優時代の仲間はそれができた。その差はなにかというと、武井や木村はいわゆる「棒」でないという点だ。「棒」とは台詞棒読みの大根と言う意味だ。

  現在の仲間由紀恵は大女優といった風格だが、新人の頃は経験値がないから「棒」であった。

  『トリック』では、仲間は売れないマジシャンを演じていた。完璧な美貌の仲間が、共演者たちに粗雑に扱われたり、トラブルに巻き込まれたりする姿はユーモアがあって面白かった。

  『トリック』のDVD特典映像をみていると、仲間由紀恵はドラマの中と同じ口調で、すばらしい反射神経で堤幸彦に突っ込んだり、身も蓋もないことを言われたりしていた。つまり、ヒロインの役柄と仲間は近いのだ。

  経験がない女優を起用するときに、プロデューサーや監督は、その女優達の芸のなさを逆に利用しようとする。「棒」である方が、面白味の出る作品を選んでいく。そのひとつにホラーというジャンルがある。

  AKB48出身の前田敦子も女優に転身後、初主演の映画は『クロユリ団地』(2013年公開・中田秀夫監督)というホラー映画だった。恐怖という感情は、テクニックなしでもみせられる。また、演技の技術がないアイドルは素で“怖い”を表現するが、そのリアリティに商品価値がある。

  コメディにも同じ要素があり、 ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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