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終身在位の皇室典範と矛盾、生前退位の特例法

「女性宮家」問題に正面から対処してこなかった「政治の不作為」

岩井克己 ジャーナリスト

 天皇陛下の生前の退位を可能とする特例法案が国会で成立する見通しとなった。

 筆者は安倍内閣の「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(今井敬座長)の専門家ヒアリングの対象者として「抜け道めいた特別法を定めるのではなく皇室典範の改正という王道を行くべきだ」と主張した。

  しかし、16人の専門家の中で、そう主張したのは大石眞京都大学名誉教授と筆者の2人だけで、憲法上、法技術上の難点や時間がないことなどを理由として容れられなかった。依然として「なるほど」と納得することができず釈然としていない。

  典範本則は終身在位だが、特例法は生前の退位を実現するという矛盾、今回の退位は特例だが将来の先例にもなるという矛盾を抱える。首尾一貫した体系だった皇室制度が「ハイブリッド」法体系とでも呼ぶべき複雑でわかりにくいものになる。

 特例法は、皇室典範本則は手付かずにしながら、附則を置いて皇室典範本則と一体のものとみなすという。本則を「母屋(おもや)」、特例法を「離れ」とすれば、附則は渡り廊下とでも喩えられるだろう。

  特例法が施行されると、天皇陛下は上皇陛下、皇后様は上皇后陛下、弟の秋篠宮さまは皇嗣殿下という新たに設けられる「特例」身分となる。いわば離れの住人となるわけだ。

  では、皇太子さまは天皇、雅子さまは皇后となるのだから母屋に残るのかというと、そうではない。母屋では跡取りは先代家長が亡くならないと家長になれないルールがそのまま適用されるから、この喩えで言えば、皇太子ご夫妻も即位したら離れの住人になるのである。「特例天皇」「特例皇后」と呼ばれてしまうかもしれない。

  現天皇陛下は平成元年1月9日の「即位後朝見(ちょうけん)の儀」で「日本国憲法及び皇室典範の定めるところにより、ここに皇位を継承しました」と内外に宣言した。皇太子さまは「日本国憲法及び皇室典範特例法により」と宣言することになるのだろうか。

  以上、どなたにとっても、なんだか失敬な扱いにみえてきて仕方がないのである。

 それはそれとして、大島理森衆院議長ら衆参正副議長のあっせんにより、何とか与野党総意で天皇陛下の退位を実現する法整備へと着地する運びだ。天皇の生前の退位自体に反対する専門家が数多く選ばれていたことを思えば、9割前後が高齢退位に賛成し、6、7割が将来の天皇にも適用される典範改正を支持していた国民世論の後押しがあったからだろう。

  そして国会の焦点は、将来の皇位の安定的継承の問題で、いわゆる「女性宮家」の創設など早急な典範改正に取り組むべきだとの付帯決議をめぐる与野党の綱引きに移った。

婚約準備が報じられた、勤務先を出る眞子さま=2017年5月17日、東京都千代田区拡大婚約準備が報じられた、勤務先を出る眞子さま=2017年5月17日、東京都千代田区
  自民党内に「女性宮家」は男系男子の皇位継承原則をなし崩しにすることにつながると反対し旧皇族の復籍を主張する声が強く、議長あっせんのとりまとめにあった「女性宮家」の文言を入れることや期限を区切ることに反対しているからだ。

  皇室では、紀宮清子内親王(現黒田清子さん)から9人続けて女子しか生まれず、天皇陛下の孫の世代では41年ぶりに生まれた男子である悠仁親王しか男子がいない。現在7人いる内親王や女王方も結婚適齢期に差し掛かりつつあり、このままでは悠仁親王の周りに誰もいなくなる事態が予想される。

  皇族数の減少と宮家の消滅は必至で、皇位継承の男系男子主義をやめて女性や女系の皇族にも継承権を認めるか、敗戦時に皇室を離れた旧皇族に戻ってもらうかしかない。

  小泉純一郎内閣は女性・女系天皇を認める典範改正を目指したが、予想を上回る反対が起きて国論分裂となり、悠仁親王誕生で見送りとなり、より右派色の強い第一次安倍内閣でお蔵入りとなった。

  政権交代した野田佳彦民主党内閣は、男系男子主義は維持しつつも、いわゆる「女性宮家」を認めて女性皇族が結婚後も皇室にとどまったり外から皇室を支えてもらう方策を模索したが、政権崩壊で果たせず、第2次安倍内閣で棚上げになっていた。

  国民の世論調査では今のところ圧倒的に「女性宮家」に賛成が多い。しかし自民党や維新の議員には圧倒的に反対が多く、こちらもギャップが大きく埋めがたい状況だ。安倍首相自身も旧皇族の復帰を主張してきた。今の付帯決議をめぐる与野党の綱引きは根が深いのである。

  そして、まさにその山場に差しかかるところで、秋篠宮家の長女眞子内親王の婚約内定というビッグニュースが飛び込んできた。筆頭宮家の長子であり、姉として悠仁親王を支えることも期待されていただけに影響は大きい。眞子内親王が皇室を去れば、妹の佳子内親王や他の女性皇族が皇室に残るのはちぐはぐの扱いとなるだけに、内親王や女王方の「離脱ドミノ」の引き金にもなりかねないからだ。

  長年、正面から対処しないできた「政治の不作為」も臨界点に達した感がある。

  野田民主党内閣は、有識者からのヒアリングや論点整理を終え、皇位継承原則に手を着けないで皇族の減少に対処し安定継承の潜在的な担保を図る方策を、以下の三つの選択肢に整理していた。

  (A-1)女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する。夫や子も皇族とする。

  (A-2)女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する。夫や子は皇族としない。

  (B)女性皇族は結婚後は皇籍を離脱するが、皇室の活動を支援できるようにする。

  この選択肢のうち(A1)と(A2)は皇室典範改正が必要で、将来の女系天皇につながるとの保守派の強硬な反対に遭った。

 (B)は必ずしも典範改正を要しない。野田内閣での有識者のヒアリングでは、離脱後も「内親王」の称号を維持してもらうとの意見も多かった。戦前の旧皇室典範でも認められていたからだ。

  しかし ・・・続きを読む
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筆者

岩井克己

岩井克己(いわい・かつみ) ジャーナリスト

ジャーナリスト。朝日新聞特別嘱託。1947年生まれ、71年入社。94年から2012年5月まで朝日新聞編集委員。皇太子ご夫妻訪韓延期へ、礼宮さま婚約、即位の礼の骨格、雅子さま懐妊などをスクープ。05年、「紀宮さま婚約内定」の特報で新聞協会賞受賞。著書に『侍従長の遺言』『天皇家の宿題』。監修に『徳川義寛終戦日記』『卜部亮吾侍従日記』など。

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