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藤井聡太ブームを機に「将棋の観客」創出を

将棋の神様が送り出した「王者の候補」のキャリアは始まったばかり

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

29連勝を果たし、感想戦で対局を振り返る藤井聡太四段(右)。左は敗れた増田康宏四段=2017年6月26日、東京都渋谷区の将棋会館29連勝を果たし、感想戦で対局を振り返る藤井聡太四段(右)。左は敗れた増田康宏四段=2017年6月26日、東京都渋谷区の将棋会館
 世はどういうわけか、将棋の新星・14歳の藤井聡太四段ブームになっている。将棋のルールが一切わからない人向けにもニュース番組のトップで時間をかけて報道しているので、これはおそらく単に飛び切り若い少年選手の、勝負の世界での将来性を感じさせる活躍を喜ばしく思う老婆心の高揚なのだろう。この連勝は29で止まったが、以後どういう報道になるのか、注目しておきたい。

  過去、スポーツを中心にどんな競技にもそのような少年少女の選手が現れてブームになり、その後王者たる活躍をしたりしなかったりしていった。将棋の歴史を振り返って対比する情報整理も多い中、プロとしての公式戦連勝記録それもプロデビュー以来の、ということで記録に残る活躍ではあり、それらが歴代の将棋の王者たちに匹敵する、少年時代の実績であることは間違いない。

  そしてそうした「元・神童の歴代王者や次期王者」が出現してきた頻度(例えば加藤一二三九段77歳、中原誠十六世名人69歳、谷川浩二九段55歳、羽生善治三冠46歳、渡辺明竜王33歳、豊島将之八段27歳)を考えても、「そういうタイミングに、将棋の神様が、また一人、王者の候補を送り出した」に過ぎない。

  大相撲・白鵬63連勝の際にも論じたとおり、あらゆる勝負の記録の中で、「連勝」ほどはかないブームはない。藤井四段のプロとしての価値は、これから10年20年、通算1000勝以上(46歳の羽生が現在史上最速での1300勝以上)していく中で築かれていくもので、今後その域に十分達する可能性を見て取れつつも、まだ藤井のキャリアは始まったばかりだ。

  今回の件でもし将棋に今後揺るがぬ関心を持つ人がいたら、近年のマイナーな話題であったプロ棋士対AI型将棋ソフトの構図(=藤井聡太はAIに勝てるのか)とともに、これから30年かけてゆっくり楽しんでいただければよい。この点のあるべき考え方は、自動車対人間で100メート走を競争することの無意味さと同じく、「将棋ソフトが人間を強くするように役立っていけば素晴らしい」という趣旨を報道に繰り返している羽生の説明に尽きる。

  問題は、(公益財団法人)日本将棋連盟がこの一過性の藤井聡太ブームをどう活かすか、にある。日本将棋連盟は会長・理事が、個人事業主である現役プロ棋士の寄り合いで運営する互助会的な組織で

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