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公共性論議が欠かせないNHKネット同時配信課金

受信料型か有料対価型かの前に、政府からの独立性や視聴者の番組関与を検討すべき

武田徹 評論家

  ネット同時配信を可能とする放送法改正が実施された際に受信料制度をどうするか。

  NHKの検討委員会が6月27日に答申案をまとめた。そこではまず「NHKが放送だけでなくインターネットによる常時同時配信を通じて、正確な情報で人と人を互いにつなぎ、『信頼の窓』『情報の社会的基盤』としての役割の向上を目指すことは必要であり妥当だ」とし、ネット同時配信を利用する場合に既に受信契約済の世帯に対してはPCやスマホ等を「同一世帯内の2台目、3台目のテレビ」として取り扱う、つまり常時同時配信を追加負担なしで利用できるようにすることが適当だとしている。

ネット同時配信の実験が行われたNHKの情報番組「あさイチ」=2015年10月19日拡大ネット同時配信の実験が行われたNHKの情報番組「あさイチ」=2015年10月19日
  一方でテレビを持たず、受信契約を結んでいない世帯(総世帯の約5%)が常時同時配信を利用する場合については二つの費用負担方法が想定されている。すなわち常時同時配信のみの利用者に対しても受信料負担を求める「受信料型」と利用・サービスの対価を設定し、費用負担を求める「有料対価型」である。

  答申案では「受信料型」を本命としつつ、ネット経由の視聴でも受信料を支払うことに関して多岐にわたる論点の検討や視聴者・国民の理解を得る必要があるので、現時点ではオンデマンド視聴などの実績がある「有料対価型」を当面の暫定措置として検討しておくとしている。

実質的な受信料義務化

  近い将来の可能性について検討したこの答申案に関してはパブリックコメントが募集されているので、様々な意見が寄せられるだろう。筆者もこの機会に考えを述べておきたい。

  まずネット同時常時視聴を可能にすることに関しては総論賛成である。理由は後述する。しかし、その実現のための設備投資や運営費に関しては、そもそも総世帯の5%でしかない母集団の中で、更に「有料対価型」で支払われるネット受信料だけでの充当は難しく、総受信料収入から一定程度を割くことになるのだろう。

  ネット側の拡張が受益者負担原則で進められていないのは現状もそうだが、常時同時配信を利用しない受信者に更に負担を強いるのであれば、4K、8K化を進める放送界のトレンドの中で、ネット同時常時配信をNHKが、あるいは放送業界全体がどのように位置づけてゆくのかの将来ビジョンも示した上での議論が改めて求められるのではないか。

  たとえば裁判になったケースはあったが、今のところテレビ契約世帯には受信料負担が求められていない既存のワンセグなどによる携帯端末からのNHK番組の視聴ではなぜいけないのか、についても考え方を示す必要もあろう。

  というのも答申では地上波テレビ受像機がテレビ専用機器だったのに対してPCやスマートフォン、タブレット等は様々な用途を持つ汎用端末なので、たとえばアプリを開くなど、何らかのアクションを取って常時同時配信を視聴可能とする環境を用意した場合に費用負担するのが適当だろうとしている。

  こうしたアプリを通じた視聴となると、NHKを悩ませてきた受信料に関するフリーライドの問題は実は消失する。課金を含む受信契約に同意しなければ技術的に視聴不可能にでき、サイバー法学者ローレンス・レッシグの言うところの「環境(=プログラム、アルゴリズム)」による支配が可能となるからだ。こうしてアプリを経由したネット配信視聴はNHKにとって法改正を経ずに実質的に受信料義務化に向けて踏み出すことでもあり、その是非についての議論が必要となる。

  その一方でアプリを介した視聴ではアプリの仕様から課金方法も含めてAppleやGoogleなどOSメーカーに依存することにもなる。公共放送の視聴で、それが果たしてふさわしいかの議論も避けられまい。

受信料を正当化するのは放送の公共性

  しかし最も時間をかけるべきは、やはり「公共放送」の公共性を巡る議論だろう。先に筆者がネット視聴に総論賛成と書いたのはNHKが本当に公共放送としての使命を果たしているならば、その視聴方法は誰もが様々な環境で視聴できるように多様に用意されたほうがよいという原則論に基づく。

  そして ・・・続きを読む
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筆者

武田徹

武田徹(たけだ・とおる) 評論家

評論家。1958年生まれ。国際基督教大大学院比較文化専攻博士課程修了。ジャーナリストとして活動し、東大先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大人文学部教授を経て、17年4月から専修大文学部人文ジャーナリズム学科教授。専門はメディア社会論、共同体論、産業社会論。著書に『偽満州国論』、『流行人類学クロニクル』(サントリー学芸賞)、『「核」論――鉄腕アトムと原発事故のあいだ』『戦争報道』、『NHK問題』など。

 

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