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「許せない」と「ありがとう」が共存している

終焉期を迎えたハンセン病療養所の入所者心理・2017年

徳永進

☆1. アンケートはがきを配る

1988年2月、念願の本土と長島を結ぶ「邑久長島大橋」がかかる(写真 宮﨑賢)
拡大1988年2月、念願の本土と長島を結ぶ「邑久長島大橋」がかかる(写真 宮﨑賢)

 1年前の2016年の7月、熊本の国立ハンセン病療養所菊池恵楓園から送られてくる機関誌「菊池野」をめくっていて、目が止まった。そこには、「全国ハンセン病療養所入所者数・平均年齢」が記されていた。

 入所者数1,577名、平均年齢84.8歳とあり、全国13の国立ハンセン病療養所それぞれの入所者数が記されていた。何に驚いたかというと、1577名という数字だった。約半世紀前、私が学生時代のころ、その数は1万1千人くらいだった。21年前の「らい予防法廃止」の年で入所者数は約5500名。この21年間で、約4000人が他界されている。

 一種の危機感が走った。

 日本のハンセン病史は近々幕引きを迎える。消滅の前に、療養所にいる人たちは今どんな気持ちでおられるか、そのことを聞いておきたいと思った。

 入所しておられる方々にとっては、はた迷惑なことだが、アンケートを配布させてもらい、はがきで返答をしてもらおうと思い立った。ハンセン病社会復帰セミナーセンター「交流(むすび)の家」の仲間が、手分けして全国の入所者自治会にはがきを届けた。

 その前に確認しておきたいと思った。今現在、入所者数はいったい何名なのだろう。2017年5月現在の入所者数合計を全国の自治会へ電話して調べた。合計人数は1,461名だった。1年間で116名の方が他界されていた。

 失礼なアンケートご容赦願いたい、と書き、3つの項目を記したはがきを送った。

 1.「今思うことを伝えたいことを20字で」、2.「次の項目のうちで、今の気持ちに該当するものに〇を。複数可です」、3.「人生を振り返ぅてどう感じられますか? 1.とても悪い 2.悪い 3.ふつう 4.良い 5.とても良い」。何人の人から返事が来るんだろう。せめて50人の人から返事が来るのを願った。

☆2. アンケートはがきが返ってきた

夜の瀬戸内海、カキ棚が浮かぶ(写真:宮﨑賢)拡大夜の瀬戸内海、カキ棚が浮かぶ(写真:宮﨑賢)

 予想を超えて、アンケートはがきは返ってきた。北の東北新生園から南の宮古南静園まで。返送されたはがきは493枚になった。

 ここにまとめるのは、3つの質問のうちの2番目で、「あなたの今の気持ちは?」と尋ねたもの。10項目の下記の気持ちを並べ、〇印をしてもらった。

 ① 差別、許せない
 ② 赦します
 ③ お母さーん
 ④ 故郷に帰りたい
 ⑤ あきらめている
 ⑥ ありがとう(感謝)
 ⑦ さようなら
 ⑧ 呆けたくないな
 ⑨ この病気のおかげ、もあります
 ⑩ 年取って、何が何だか、わからない

アンケート集計
1 差別、許せない →285    58%
2 赦します              62    13%
3 お母さーん         80     16%
4  故郷に帰りたい  100     20%
あきらめている   173     35%
6 ありがとう(感謝)  213     43%
さようなら        34      7%
呆けたくないな   162     33%
この病気のおかげ、もあります   81     16%
10 年取って、何が何だか、わからない  56      11%

☆3. アンケートはがきから考える―その1―

長島愛生園の患者収容桟橋(写真:宮﨑賢)
拡大長島愛生園の患者収容桟橋(写真:宮﨑賢)

⑥「ありがとう」(213人・43%)

 強制収容をされた入所者の人の口からこの言葉は出てこないと思われるのに、これだけ多くの人が⑥に〇印をつけた。収容された直後だったら、⑥に〇をつける人はゼロに近かったと思う。長い時間が経ち、老い、いろんな障害が起こり、家族も他界し独りぼっちになり、なんとか生き延びて、⑥の気持ちが生まれた、とも考えられる。

⑨「この病気のおかげ、もあります」(81人・16%)

 病(やまい)は悪、に終わらず、そこから別の何かをつかむことは至難のことと思われる。

 日本では「結核」で亡くなる人が多かったが、その中で結核をバネとして人生を開いた人も多くあった。ハンセン病が心身に、また社会性という点で当事者に残した傷は深い。創造の病にハンセン病を人間がなしうるだろうかと思われるが、こんなに多くの人がそう答えていることは驚きでもある。

 人間の懐の深さを知る。

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筆者

徳永進

徳永進(とくなが・すすむ) 野の花診療所医師、ノンフィクション作家

1948年、鳥取県に生まれる。京都大学医学部を卒業。京都、大阪の病院・診療所を経て、1978年から鳥取赤十字病院の内科医に。2001年12月、鳥取市内にてホスピスケアのある有床診療所「野の花診療所」を始める。今年で15年目となる。1982年『死の中の笑(え)み』(ゆみる出版)で、第4回講談社ノンフィクション賞を受賞。1992年、第1回若月賞(独自の信念で地域医療をしている人に贈られる)を受賞。著書には『隔離』(ゆみる出版)、『死ぬのは、こわい?』(イースト・プレス)、『詩と死をむすぶもの』谷川俊太郎さんとの共著(朝日文庫)、『野の花ホスピスだより』(新潮社)、『こんなときどうする?』『野の花あったか話』(岩波書店)、『ケアの宛先』(雲母書房)、『在宅ホスピスノート』(講談社)、『団塊69』(佼成出版社)などがある。

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