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いじめ対策法が効果をあげていないのは何故か

教員の学級経営能力に還元できないいじめ、学校全体で取り組めば見つかる解決の糸口

樫村愛子 愛知大学教授(社会学)

橋本昌・茨城県知事(右)のもとで、2年前に取手市の中学3年生の中島菜保子さんが自殺した問題の調査委員会が設けられることになり、「いじめ被害があった」と訴えている両親が面会した=2017年8月4日、水戸市の茨城県庁拡大橋本昌・茨城県知事(右)のもとで、2年前に取手市の中学3年生の中島菜保子さんが自殺した問題の調査委員会が設けられることになり、「いじめ被害があった」と訴えている両親が面会した=2017年8月4日、水戸市の茨城県庁
 NHK『クローズアップ現代』7月18日放送「なぜ続く“いじめ自殺” ~子どもの命を救うために~」(http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4009/index.html)で、茨城県取手市の女子中学生自殺問題を取り上げていた。

  市の教育委員会は、5月、「いじめ」はなかったという判断を一転し、遺族に謝罪した。“いじめ自殺”の調査をめぐる「初動の誤り」は全国で起きていて、いじめはなかったとする学校側の判断が覆されている。2013年に施行されたいじめ防止対策推進法では、遺族に寄り添い、徹底して調査を行うことを求めているが、教育現場に浸透していない実態が現れているとする。

  自殺した中島菜保子さんの日記にはいじめの記述がありながら、学校の調査ではいじめがないとされた背景には、死んでしまった同級生との行為や関係を、残った子どもたちに聞くことへの学校側の過度な配慮、調査において「いじめ」という言葉を使うことも忌避していたことなどが紹介されていた。

  また、自殺直後に両親に謝りに来た教員たちの態度が、責任追及との関係で変わっていったことへの親からの不信も紹介されていた。

  このように、自殺の真相の究明よりも、子どもたちへの配慮や、責任を追及されないよう防衛することが優先されてしまう状況が浮き彫りになっていた。

  事故の解明と再発防止を進めたくても、起こった事件に対し、法的な利害対立の立場に立つと、それはさらに限りなく困難となる。

  米国などの航空機事故においては、パイロットは、知っていることを隠さずに全て話すことを条件に、刑事訴追を受けない「免責」が与えられている。

  原因調査の目的は、当該パイロットを処罰するためではなく、同種の事故の再発を未然に防ぐことであり、それにより航空機の安全性を高めることの方が、社会にとってより利益が大きい(法益)と判断されているからである。このように、事故原因の追究の構造の困難が周知されているからこそ、最も守りたい命のために制度を作っていこうとする取り組みが行われる。

  同様に、学校現場でも、訴訟のような利害対立の場に行く前に、遺族とも一緒に問題に取り組む姿勢が必要であることを、私も共に「学校福祉研究会」を主宰している、『新しい学校事故・事件学』の著者、住友剛氏(京都精華大学教授・教育学)は指摘している。

  東日本大震災の津波で児童74人と教職員10人が死亡・行方不明になった石巻市大川小を巡る訴訟では ・・・続きを読む
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筆者

樫村愛子

樫村愛子(かしむら・あいこ) 愛知大学教授(社会学)

愛知大学文学部社会学コース教授。1958年、京都生まれ。東大大学院人文社会系研究科単位取得退学。2008年から現職。専門はラカン派精神分析理論による現代社会分析・文化分析(社会学/精神分析)。著書に『臨床社会学ならこう考える』『ネオリベラリズムの精神分析』、共著に『リスク化する日本社会』『現代人の社会学・入門』『歴史としての3・11』『ネオリベ現代生活批判序説』(新評論)など。

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