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九州北部水害と林業の関係を考える

減災につながる森林管理の模索が必要だ

田中淳夫 森林ジャーナリスト

拡大福岡県朝倉市の高木地区では流木の撤去作業が続いていた=8月11日

林業が被害激甚化の一因?

 九州北部大水害が発生して2カ月近くが過ぎた。被害状況が徐々に明らかになり、復興の課題も浮かび上がってきた。ただ報道の中に、水害の発生や被害の激甚化の一因に林業があるかのような記述が目に止まる。

 具体的には、スギやヒノキの人工林は根が浅くて崩れやすい、森林整備の遅れが災害に弱い山にした、切り捨てた間伐材や山に設けた土場に積んであった丸太が流木被害を引き起こした……などである。

 水害の発生と被害状況は、その地域の地質や地形、植生、そして当日の気象などさまざまな要因が重なり合って起きるので、一概に言えない。それでも水害と森林の関わりについては、長年の研究で積み重ねた科学的な知見がある。それらからすると、明らかに誤った認識と言わざるを得ない点もある。それらを指摘したい。

 まず基本的なことは、ヒノキは浅根性だが、スギはどちらかと言えば深根性である。なぜか林業用樹種は根が浅いという思い込みが(林業家にも)見られる。植樹する際に直根を切るから下に伸びないとする意見もあるが、成長後の根を調べると遜色ない観察結果が出ている。

根系が果たす崩壊防止効果の再検討が重要だ

拡大林齢または伐採後の経過年数と抜根抵抗力の関係(スギ)。「抜根試験を通して推定した林木根系の崩壊防止機能」(北村嘉一、難波宣士)より抜粋
 また地表の浅い部分に根が広がった場合も、崩壊防止には寄与する。北原曜・信州大学名誉教授は、土壌を広く緊縛することで一体化し崩壊を止める効果を実験から導いている。根の引き抜き抵抗強度も、マツ類は弱かったものの、スギやヒノキ、広葉樹(ケヤキ、ナラ類等)では差がなかった。むしろ重要なのは、根系が果たす崩壊防止効果を再検討することだろう。

 なぜなら、どんな樹木であろうと根の広がる範囲は土層だけだからだ。基盤岩層の節理(ヒビ)に分け入ることはたまにあるが、細根だから土砂崩れへの抵抗力は弱い。そして土層は通常深さ1~2メートル。尾根などは数十センチ、谷や窪地でも3メートルを越えない。巨大な山塊からすると薄い皮膜にすぎない。つまり高さ20メートル、30メートルの樹木であろうと、根の深さはその10分の1以下しかないのだ。

 林野庁の発表した被害地の調査結果概要によると、当地の立木の根系の深さは約1~2メートルであり、地質条件に応じた深さまで伸びていた。決して成長が悪かったわけではない。

天然林も崩壊

 また現場の空撮写真を見ると、人工林だけでなく天然林も崩壊している。「人が植えたところは崩れやすい」という意見も無理がある。

 斜面崩壊のメカニズムを解きあかすと、まず豪雨によって地表水が土壌を削るとともに、地下に浸透することで水の分だけ土層は重くなり、滑らせようとする力が増す。一方で地下水面の下側には浮力が働き、さらに土壌間に染み込んだ水によって土の粒子の凝集力も小さくなる。結果、土層の安定が失われて崩壊に至るわけである。今回の災害も、地下に浸透した水が集まりやすい凹地形の山腹が多く崩壊している。

 土壌が厚ければ保水力も大きいが、地下水面が上昇したときには、むしろ斜面の安定低下に結びつく。樹木があってもその影響は変わらない。また斜面に生える樹木は、それ自体の重量が下方への圧力となり崩壊を後押しするだろう。

 そもそも岩盤から崩れる深層崩壊の場合は、 ・・・続きを読む
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筆者

田中淳夫

田中淳夫(たなか・あつお) 森林ジャーナリスト

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部卒。日本唯一の森林ジャーナリストとして森林と人間の関わりをテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『森林異変』『森と日本人の1500年』(ともに平凡社新書)のほか、『日本人が知っておきたい森林の新常識』(洋泉社)、『樹木葬という選択』(築地書館)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)など多数。