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[1]南海トラフ地震に備える

地域の産・学・官・民が連携し、災害の克服に取り組む

福和 伸夫 名古屋大学減災連携研究センター長・教授

 首都直下地震や南海トラフ地震の発生が心配される中、我が国は、人口減少や多大な債務など難題を抱えている。未来の子供たちに豊かな社会を継承するには、過去の災害に学び将来に備える必要がある。見たくない現実を直視し、社会の災害病巣をあぶり出し、早期に切除・治癒し、災害を未然に防ぎたい。なかでも南海トラフ地震対策は喫緊の課題である。南海トラフ地震は、「確実」「甚大」「衰退」「限界」の4つのキーワードで語ることができる。

被害は「甚大」、近い将来の発生は「確実」な南海トラフ地震

拡大南海トラフ地震に備えて実施された救助訓練=2017年1月、神戸市
 南海トラフ地震は、地震調査研究推進本部によればマグニチュード8~9の地震が今後30年間で70%程度の確率で発生するとされており、近い将来の発生が「確実」視されている。また、中央防災会議が予想した被害量は、最悪、32万3千人の死者、240万棟の全壊家屋、3億トンの廃棄物、ストック被害170兆円・フロー被害45兆円の経済被害と、「甚大」である。死者数は地震による直接死のみであり、関連死も含めるとさらに増大する。また、全壊家屋数や瓦礫量は我が国の住宅着工戸数や廃棄物の数年分に相当する。経済被害は国内総生産(GDP)の4割、国家予算の2倍を超え、1923年関東大震災の被害にも匹敵し、我が国のストック資産約3000兆円の5%、フロー資産(GDP)約500兆円の10%を失うことになる。

国家の「衰退」につながるが、行政の対策にも「限界」

 関東大震災の後、金融恐慌、満州事変、日中戦争、太平洋戦争と続いたことを勘案すると、国家の「衰退」にもつながる。産業立国を支える製造業の多くは予想被災地域に立地する。製造施設が大きなダメージを受ければ、その再生は難しく、各企業の防災対策に加え、産業の基盤でもあるインフラ・ライフラインの強化が急務である。しかし、多大な債務を抱える中、行政主導の対策にも「限界」がある。そもそも、限られた災害対応力では災害後の対処は難しい。何としても、我が国の総力を結集して、事前に被害を減じる必要がある。

 南海トラフ地震の被害量が過大との指摘もあるが、過去に発生した1923年関東地震、1293年鎌倉大地震、1498年明応地震、1707年宝永地震の死者数を当時と現代の人口比で換算すると、いずれも30万~40万人の死者になり、南海トラフ地震の予測死者数32万3千人に匹敵する。前2者は相模トラフでの地震、後2者は南海トラフでの地震である。当時と比べ家屋の耐震性は増したが、都市では災害危険度の高い場所にまちが広がり密集度が高まっているため、脆弱性(Vulnerability)の減少とハザード(Hazard)・暴露(Exposure)の増大が相殺していると考えられる。南海トラフ地震の予想被害量は、いずれも2011年東日本大震災の10倍を超えているが、震源域が陸域に近く被災人口が10倍であることを考えれば、妥当な被害量だとも言える。

 筆者が居住する中部地域は、自動車産業や航空機産業が集積する世界有数の産業拠点である。我が国の工業出荷額は約300兆円だが、ダントツ1位の愛知県の43兆円を始め、4位の静岡県16兆円、9位の三重県11兆円など、日本の産業の中核を担っている。とくに、西三河地域への集積は大きく、西三河9市1町で23兆円を占め、2位の神奈川県18兆円を大きく上回る。名古屋を中心とする中京圏は「大いなる田舎」と評されるように、地元出身者が多い実直・地道な地域であり、地産地消、子沢山で、3世代同居率が高い旧来の日本的社会の特徴を多く残した自律力の高い都市圏である。この地域特性が、製造業を支えている。また、首都圏、関西圏に次ぐ第三の都市圏のため、東西の狭間の中、国費の投入が限られており、地域主導で名古屋港開港、日本初の民間放送開設や電波塔・テレビ塔建設、地下鉄建設、中部国際空港開港、リニア建設に取り組むなど、三男坊的な自立心が旺盛である。

地域特性を生かし、産・官・学・民が連携して南海トラフ地震対策

拡大来館者3万人達成を喜ぶ来館者とスタッフたち=2016年6月、名古屋市千種区不老町の減災館
 この地域特性を生かした南海トラフ地震対策が始まりつつあるので、その一端を紹介する。いずれも地域の産・官・学・民が連携した独自の取り組みで、5年前に開設した名古屋大学減災連携研究センター、3年前の減災館建設、西三河防災減災連携研究会発足、本音の会発足、本年に開設した「あいち・なごや強靭化共創センター」などの活動である。減災連携研究センターには産業界による3つの研究部門に加え40名の受託研究員・研究員が集い、産・官・学・民の本格的な協働が実践されている。減災館は、平時の啓発・育成の拠点として1~2階を広く社会に開放しており、産・官・学・民での「防災・減災カレッジ」などの人材育成も活発に行っている。これまでに老若男女5万人弱の市民が来館した。

 また、西三河防災減災連携研究会では、西三河の9市1町が、電力・ガス・トヨタ・県・大学と手を携えて防災対策を推進する市町を超えた広域連携が実現した。本音の会では、オフレコを前提に公式の場では発言しにくい各組織の弱点をさらけ出し合い、地域共通の災害病巣を共通認識しつつある。現在では70組織のメンバーが毎月集っている。その結果、発電には水と燃料が、製油には電気と水が、浄水・送水には電気と燃料が必要であり相互依存の関係にあること、基盤となる道路・港湾・通信では多くの組織が関わるため連携不足の問題があることなどが明らかになった。このような活動を通した信頼関係が、産・官・学が人と資金を供出して設立した「あいち・なごや強靭化共創センター」に結び付いた。いずれの活動も、「同じ船(地域)」に乗った者どうしが、地元愛という共通の信頼関係に基づいて地域力を結集した成果である。

克災のために地域力を育む

 「確実」に「甚大」な被害を出し国の「衰退」にも繋がる南海トラフ地震を前に、行政対応の「限界」を認識して行動する必要がある。この災害を克服(「克災」)しなければ、将来を担う子どもたちに顔向けができない。地域の産・官・学・民の力を結集し、克災のために地域力を育み、減災活動を通して「減災ルネサンス」とも言える新たな価値観の活動を創出し、地域の未来と希望を拓(ひら)きたい。過度な東京一極集中を是正し自律・分散・協調型の国土を形成するには、地域を支える人づくりと、地域愛を育む魅力づくりが不可欠である。

 その際に、地域の大学が、ホンネで語りホンキになって具体的アクションに繋げる研究を推進し、人材育成と戦略策定のためのシンクタンクの役割を担い、人が集い語り協働するアゴラの役割も果たすとよい。筆者らも、南海トラフ地震の克災のため、シンクタンクのあいち・なごや強靭化共創センターとアゴラの減災館を活用し、Think globally, act locallyの態度で、3×JAPAn活動を実践したい。3×JAPAnは、3J=自由・地道・地元、3A=頭・汗・愛、3P=Player・Plan・Product、3An=Antenna・Analysis・Answerの語呂合わせであり、三男坊の名古屋的な活動である。各地で減災ルネサンス活動が芽生え育つことを期待する。


筆者

福和 伸夫

福和 伸夫(ふくわ・のぶお) 名古屋大学減災連携研究センター長・教授

1957年に名古屋に生まれ、81年に名古屋大学大学院を修了した後、10年間、民間建設会社にて耐震研究に従事、その後、名古屋大学に異動し、工学部助教授、同先端技術共同研究センター教授、環境学研究科教授を経て、2012年より現職。建築耐震工学や地震工学に関する教育・研究の傍ら、減災活動を実践している。とくに、南海トラフ地震などの巨大災害の軽減のため、地域の産・官・学・民がホンキになり、その総力を結集することで災害を克服するよう、減災連携研究センターの設立、減災館の建設、あいち・なごや強靭化共創センターの創設などに力を注いでいる。

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