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大学院のカルチャースクール化をどうする?(上)

予備校化する理系の修士課程と、定員割れする東大文系の大学院

杉浦由美子 ノンフィクションライター

 国立大学文系学部の廃止を含む見直しが話題になってしばらく経つ。実際、国立文系学部は過渡期にきているのではないか。

 地方都市の学習塾経営者がいう。

 「地元の国立大学の学生をバイト講師で雇っています。20年前は文学部だろうが工学部だろうが学生は基礎学力があり、高校生の指導ができた。ところが今文学部の学生はセンター試験の数学すら受けずに入ってくるので、講師として使い物にならない。なので、理系の学生しか今は雇わないです」

 このような「国立文系学生の学力不足」の話をよく聞く中で、今回は、大学院の文系の現在について取り上げたい。

就職の見込みなしに大学院に進学する

 『高学歴ワーキングプア』(水月昭道・光文社新書)がベストセラーになったのが今から10年前だ。

  1990年代に国が大学院を増やし、大学院の定員を増やした。結果、大学院に入ることがたやすくなり、博士号をとるハードルも下がったために、博士号を得ても大学に就職(任期のない専任教員)できない人たちがあふれていることが描かれ、話題になった。2017年現在もこの傾向に変わりはない。

  この『高学歴ワーキングプア』という本を最初に知ったとき、私は不思議に思った。「どうして就職の見通しがないのに大学院に行くのか」と。1990年前後に、東大生たちがこう話していたからだ。「僕たちは研究が好き。大学院に行って研究者になりたいけれど、うちのゼミで一番優秀な○○くんが院に行くから僕らが進学してもアカデミックでポストを得られないから、諦めて民間企業に就職する」と。

法科大学院の自習室。学生1人に幅90センチの机が割り当てられる=2006年、東京都内拡大法科大学院の自習室。学生1人に幅90センチの机が割り当てられる=2006年、東京都内
  当時、東大生にとって院に行くのは「研究者になって、大学の専任教員になる過程」だったのだ。医者になるために医学部に進学する、薬剤師になるために薬学部に入るのと変わりない感覚だったのではないか。彼らは「大学教員養成機関」ととらえていたように思う。

  そして、こんなこともあった。私が通っていた中堅私立大学に、学士編入もできなかった中国人の留学生が東大の院に入った。驚いて、そのことを東大生に訊くと「留学生の枠があるから入るのは簡単。でも、ポスト(就職)には結びつかないから意味はない」と説明してくれた。

  しかし、『高学歴ワーキングプア』に登場する人たちは、就職の見通しがない状態で、修士課程や博士課程に進んでいる ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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