杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
「研究者になるつもりはない。『ホンマでっか!?TV』に出たい」と言う奥様院生
文系の大学院がカルチャースクール化していることについて書いている。
今回はその実態を書いてみたい。
首都圏の難関国立大学の博士課程でのことだ。「著名なA教授がまったく学生の指導をしない」と院生たちが不満をつのらせていた。
「熱心な主婦の方たちが多くて、中には名古屋から通っている人もいる。でも、みんな辞めてしまう」
面倒見が悪い大学教員の話はよく聞くので、最初は私もこの院生たちを気の毒に思っていた。
しかし、このA教授は、研究者の世界では、後輩や若手研究者への面倒見がよく、人望が厚い人物だった。
そのA教授がなぜ博士課程の学生を放置していたか。それは単純に「指導しようがない」からだ。A教授の研究室の学生は「意識高い系」の主婦が大半だった。以下、彼女たちを「奥様院生」と呼ぼう。
まず、この教授への不満を私に話した奥様院生は中堅大学の文学部の歴史学系出身で、大学卒業後、年上の男性と結婚したのちに、「このままじゃあ私の人生終わっちゃう」と出身大学の歴史学系学科の院に進学し、修士号をとる。その後、難関大学の社会学の博士課程に入ったのだ。社会学の基礎を学ばないでいきなり博士課程に進学している。
社会学の基礎がまったく分かっていない奥様院生相手では、A教授は指導したくてもすることが不可能だったのではないか。中国語の基礎がわかってない人間に、中国語で論文を書くよう指導しろと言っているようなものだ。
なぜ、私が奥様院生と接点を持ったか。奥様院生たちはマスコミに自分を売り込むからだ。
彼女たちの中には純粋に勉強をしたいというのとやや違う目的を持っている人も多い。ある奥様院生は博士号をとったが、「私は研究者になるつもりはない。学会なんて狭いところで発言しても意味はない」という。
では、なにをしたいのかと訊くと「本を出して、講演をしたり、テレビに出たりしたい
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