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学校だけに頼った社会制度が生む「生きづらさ」

子どもたちの自殺を防ぐために、本人の「困り感」に寄り添った支援を

石井志昂 『不登校新聞』編集長

注目を集めた「9月1日問題」

夏休み明けの子どもの自殺を防ごうと、子どもたちの駆け込みを受け入れるNPO法人「クレイン・ハーバー」の室内=長崎市赤迫1丁目
 今年ほど「9月1日の子ども自殺」に注意喚起された年はありませんでした。

 私が編集長を務めている『不登校新聞』は、創刊以来約20年間、この問題について取材を続けていましたが、今年ほどの注目は記憶にありません。

 しかし、新学期前後となる8月30日~9月5日の1週間で、子どもの自殺と思われる事件が9件起きました。9件中8人が死亡、1人が重傷だったそうです。

 なぜ注意喚起があったにもかかわらず、なぜ子どもの自殺が相次いで起きたのか、その背景と一過性の呼びかけ以上に大切なものを考えてみたいと思います。

子どもたちが自殺に追い込まれる原因は何か

 まずは「子ども自殺」の背景を考えてみたいと思います。

 自殺と言えば、その要因として「いじめ」がフォーカスされます。子どもの自殺が起きるとすぐに「いじめの有無」について学校がコメントしますし、子ども自殺の裁判も、ほとんどは「いじめ」にまつわるものです。

 しかし、統計上は「いじめ」を理由に自殺する人は、けっして多くありません。平成27年度の文部科学省調査では「いじめ」を理由の一つにして自殺した人は、12項目中9番目(214人中9人)でした。

 では何が多かったのかと言えば、「学業等不振」(26人)、「家庭内不和」(20人)、「精神障害」(20人)の順に多かったのです。

 ただしこの結果に、子どもの状況や教育にくわしい専門家は首をかしげます。というのも、学業不振や精神障害は、「子どもが追い詰められた結果」として現れてくる場合も多いからです。

 いまから死のうと思い詰めている人がバリバリと勉強ができるでしょうか。文科省調査は「表面上に見える状況しか示していない」と多くの専門家が批判しています。

 子どもの自殺の要因・背景の統計データとしては、文科省以外に警察庁の統計データもあります。しかし、警察庁のデータは「自殺」を調査したものではなく、このデータを母体に要因・背景を分析するのは無理があります。

 ということで、現在、信頼できる自殺のデータはないのですが、これまで専門家、学校関係者、不登校当事者に私が取材を続けてきたなかで、共通項が見えてきました。

 それは、子どもたちの「生きづらさ」が、学校、家庭、地域のなかで重層的に築き上げられているという点です。

子どもたちの「生きづらさ」と学校の関係

 子どもたちの「生きづらさ」を生んでしまう制度として、私自身がとりわけ注目したいのは「学校だけに頼った社会制度」になっていることです。

 どの学校を卒業したかが就職に影響するので、大学受験を筆頭に過度な競争ストレスにさらされてしまいます。学校だけが「将来保障の場」になっているから、いじめが起きていても、子どもは学校へ通おうとしてしまいます。「死にたいぐらいなら逃げて」というメッセージが飛び交っても、「学校以外のどこで自分の将来が保障されるのかわからない」と思いこまされてしまいます。

 もちろんそれは子どもや親が希望したことではありません。しかし、子ども時代からの人生設計は学校だけに頼るしかない社会制度になっていることも、

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