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[3] 地震の危険を避ける

都市の土地利用の見直しが必要だ

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

地震の危険とは

昭和東南海地震の津波によって陸へ流された船=1944年12月、三重県尾鷲市(当時は尾鷲町)、宮村攝三さん撮影
 「君子危うきに近寄らず」と言うが、危険は避けるに越したことはない。地震が起こると、強い揺れ、液状化、土砂崩れ、津波、地震火災などが襲ってくる。これらの恐れのある場所は避けるのが得策である。

 強く揺れれば、構造物が壊れて、人命が損なわれ社会が混乱する。揺れは、地震規模が大きく、震源に近く、地盤が軟弱なほど強い。家屋が壊れれば生活に支障が出る。役所、病院、学校などが壊れれば、防災活動、災害医療、避難などが停滞する。ビルや工場が壊れれば事業継続は難しい。構造物が大丈夫でも、設備・機器が損壊すれば生産は停止する。インフラ・ライフライン被害の影響は甚大である。堤防が壊れれば低地は長期間湛水する。橋梁の損壊や道路閉塞により物流もストップする。護岸が壊れれば港湾機能が失われる。電気・ガス・水道が途絶すれば生活や生産が困難になる。

 地盤も変状を来す。地下水位が浅く、緩く堆積した砂地盤では液状化が発生し、埋設管の損壊や埋設物の浮上、側方流動による護岸構造物の損壊、家屋の沈下・傾斜などが生じる。急傾斜地の崩落や、谷埋め盛土や切土盛土した造成地では地盤変状が生じやすい。溜池の土堤が決壊すれば下流部を濁流が襲う。活断層直上では地表に断層ずれが生じる。

 沿岸の低地では津波の危険がある。リアス式海岸のような地形では津波が高く成長し、震源域が近いと到達時間が短く、避難の暇がない。自動車、タンク、木造や鉄骨造などの軽量構造物などは津波によって漂流する。

 木造家屋密集地は火災危険度が高く、強風で、消防力が不足すれば容易に延焼拡大する。耐火性のある外装材が脱落し、木造家屋が隣接していれば、容易に延焼する。倒壊家屋が道路閉塞すれば消防車両も進入できない。最近では電気火災が増加している。石油コンビナートなどでは、大規模火災や爆発、化学物質漏洩などの危険もある。

 このように、地震時の危険度は場所に依存する。一般に、地盤が軟弱なほど揺れは強い。水辺の低地は地盤が軟弱で、液状化、津波や高潮、洪水などの危険度も高い。かつての池沼や河道、水田だった場所も同様である。丘陵地は土砂災害危険度が高い。広幅員道路や公園などの防火帯が無く、道路が狭隘で古い木造家屋が密集した地域は火災危険度が高い。

 災害は複合する。巨大地震の後には余震や誘発地震が続発し、火山活動を伴う場合もある。過去にも、1944年東南海地震の37日後に三河地震が発生し、1707年宝永地震の49日後には富士山が大噴火した。また、強い揺れで損壊した堤防が水害を招くこともある。1948年福井地震では九頭竜川の堤防が最大4.5m沈下し、27日後の豪雨で決壊した。

 建設地を新たに探すときには、ハザード(危険性)が高い場所は避けたい。すでに、建設地が決まっているときには、建設地の危険度に応じて的確な対策を施すのが肝要である。まさに、孫子の兵法で「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」である。

強い揺れを避ける

 地震ハザードの元は、震源域での断層ずれである。地震は、震源から岩盤を破壊し始め、秒速2キロ強の破壊速度で岩盤を順次ずらす。地震規模は、地震が発するエネルギーの対数を指標化したマグニチュード(M)で表現される。放出エネルギーは、震源域の面積とずれ量の積に比例し、Mが1増えるとエネルギーは約30倍になる。従って、Mが大きいほど揺れが強く、震源域が広いので強い揺れの範囲が広がる。

 震源域から放出された地震波は四方八方に拡散する。地震波にはP波やS波があり、岩盤中では、P波は秒速6~7キロ、S波は3.5キロ程度で伝播する。その結果、地震のときには、最初にガタガタというP波の初期微動を、その後ユサユサとS波の主要動を感じる。地震波は、震源から拡散することで距離と共に減衰する。点から同心球状に地震波が放出されると、揺れの大きさは距離に反比例しながら減衰する。

 一般に、プレート境界で起きる海の地震は、発生間隔が短く規模も大きいが、

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