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駅伝で「選手の体に触れた時点で失格」は誤解

シーズンイン、「ランナーの安全」と「たすき偏重」の奇妙なバランスの是正を

増島みどり スポーツライター

脱水症状でのショッキングな棄権が男女で連続

 10月9日、大学三大駅伝(出雲、全日本、箱根)の先頭を切って行われる出雲全日本大学選抜駅伝(優勝東海大)は、常時25度、道路の表面温度なら30度には達するような季節外れの高い気温下で行われた。出雲は、2つの駅伝と比較して、距離が6区間45.1キロと短く「スピード駅伝」とも称されており、重要なのはいかにいいスタートで波に乗るかだ。

  高温、1区の出来、こうした状況が初出場のチーム、また1区を任されたランナーにとって精神的にも大きな負担だったのは容易に想像できる。初出場の岐阜経済大3年・武隈泰貴は2区への中継地点が視界に入った残り100メートル付近で転倒。中継所が見えているため、本人もたすきを這ってでもつなごうと前進するが、脱水のため意識が混濁しているのは画面からも分かる危険な状態に陥った。

 実況は「無理はして欲しくない」と言いながら、「でもたすきはつなぎたい」と叫び、ショッキングな場面はしばらく流れる結果となってしまった。

 その後、岐阜経済大はようやく棄権、2区は繰り上げスタートとなった。武隈は救急車で病院に搬送された際、体温が40度にもなる病状だったとの話もあり、退院の報に関係者や各大学の指導者も一先ず胸をなでおろしたという。優勝候補筆頭の青山学院も1区が8位と遅れ、4区では法政大のランナーがやはり脱水で救急搬送され棄権している。

  女子もやはり、シーズン開幕からアンカーが棄権する事態となった。

 11月の全日本女子実業団駅伝(クイーンズ駅伝、宮城)に出場する14チーム(8チームはシード)を争う予選会、通称「プリンセス駅伝」が10月22日、福岡の宗像・福津をコースとして行われた(優勝は豊田自動織機)。3年ぶりの全日本を目指す古豪の「エディオン」は、アンカーの若林由佳にたすきがつながった時点で13位。出場をかけて最後の一枠を、名門・三井住友海上と、追い上げてきた京セラと激しく争う展開となる。しかし、ゴール手前200メートルほどの地点で若林が突如よろめきコースアウト。植込みにうつ伏して動けなくなってしまった。

  若林も脱水症状で搬送され、点滴などを受けて無事にチームに戻った。かつて地方ブロックごとで実施された予選が、3年前に全国一斉予選で中継されるようになり大きな注目を集めてきた。3年ぶりの全日本出場を目指したエディオンのアンカーの重圧も、出雲の武隈同様に想像できる。男女とも棄権シーンが注目され、「なぜ早く助けない。手遅れになったらどうする」「道路を這って苦しんでいる選手をことさら強調するのはおかしい」といった当然の批判が起きている。

走れなくなった選手の介護は許されている

  2つの例のように転倒、意識も薄れるといった最悪の事態に至る前に、選手の状態を把握しなくてはならない。実況でもよく繰り返される「選手の体に触れた時点で失格になってしまうため・・・」とのルールにそもそも誤解がある。

全日本大学駅伝予選第4組のレース途中、担架で運ばれ棄権になった創価大のムイル=2016年6月18日、さいたま市の駒場スタジアム全日本大学駅伝予選第4組のレース途中、担架で運ばれ棄権になった創価大のムイル=2016年6月18日、さいたま市の駒場スタジアム
  駅伝では地域性、距離やコース、参加者の年代によって
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