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[4]地震による建物被害を抑止する

建物の揺れを減じる、免震構造や制震構造

福和 伸夫 名古屋大学減災連携研究センター長・教授

拡大新宿三井ビルディングの屋上の制震装置。巨大なおもりが黒いワイヤでつりさげられている=東京都新宿区

地震のときに建物に作用する力は建物が重く揺れやすいほど大きい

 地震によって建物が揺れると、建物に力が作用する。この力に比べて、建物の抵抗力(強度)が小さいと、建物が壊れる。建物に作用する力は地震荷重と呼ばれ、建物が揺れることによって生じる慣性力がその正体である。車を急停止すると前のめりになる。これが慣性力である。慣性力は、ニュートンの第2法則により定義され、質量と加速度の積で与えられる。加速度は、速度の時間変化率なので、急停止すると大きな加速度が生じる。また、バスが急停止したときに、痩せた人に比べて、太めの人の方が転びやすいのと同様に、慣性力は重いほど大きい。

 建物も同様で、重い建物が強く揺れると大きな慣性力が生じ、地震荷重が大きくなる。建物の下階の柱や壁には、上階に生じた地震荷重の総和が地震力として作用するので、上階より大きな力を支える必要がある。例えば、3階建ての建物の場合、2階の床、3階の床、屋上の床の位置に重さが集中していると考えると、各床位置には、各床の質量にその加速度を乗じた慣性力が地震荷重として作用する。3階の柱と壁は、屋上の地震荷重だけを負担するが、1階の柱と壁は、2階、3階、屋上の地震荷重の総和である地震力を負担しなければならない。従って、低層階の方が多くの耐震要素(柱・壁)が必要となる。1階の柱・壁は、建物全体の重さも支える必要もあり、高層になるほど大きな力を負担しなければならない。このため、1階を駐車場にしたピロティ建物は地震に対して不利になる。

 地震力を小さくするには、軽くて揺れにくい低層の建物を作れば良いことが分かる。建物の揺れは、地盤の揺れと建物の応答増幅によって決まる。前回の記事で示したように、地盤の揺れは、地震の規模、震源域からの距離、表層地盤の地盤増幅で決まり、大規模な地震の震源域の近くや軟弱な地盤を避けることが基本となる。

地盤も建物も揺れやすい周期がある

 実は、地震の揺れには、揺れの強さだけでなく、揺れの周期や継続時間(揺れ続ける時間の長さ)というやっかいな問題がある。震源域での破壊の仕方や表層地盤の固さや厚さで、地震の揺れには特定の周期が卓越する。小さな地震では、震源断層が小さく、断層が短い時間で壊れるので、揺れの継続時間も周期も短い。これに比べ、大きな地震では震源断層が全て壊れるのに時間がかかるので、長周期の揺れが長い時間たっぷり放出される。震源から放出された地震波は、色々な経路をたどって到達するので、震源から距離が離れるほど継続時間が長くなる。そして、表層地盤が軟らかく、厚いほど長周期の揺れが増幅されやすい。

 皿の上にプリンと羊羹を乗せて皿を揺すってみると、プリンは羊羹より強く揺れ、特定の周期で揺すると特に揺れる。プリンの上半分を食べて薄くすると、最初よりも短周期で揺れやすくなる。これが地盤の卓越周期である。

 建物も揺れやすい周期を持っている。例えば、棒状の魚肉ソーセージを手に持って、左右に揺すってみると、長く持つと長周期で揺れ、短く持つと短周期で揺れる。これと同じように、建物も高さが高いほど長い周期で揺れる。これを建物の固有周期と呼ぶ。

怖い地盤と建物の共振

 大きなナットと小さなナットを用意してそれぞれ紐で吊るしてみる。そして、ナットを少し横に引いて離してみる。紐の長さが同じなら、大きなナットの振り子と小さなナットの振り子は、同じ周期で揺れる。紐の長さをl、重力加速度をgとすると、振り子の固有周期は、2π√l/gとなる。紐の長さが短くなると振り子は短い周期で揺れる。その周期で手を左右に動かすと、振り子は大きく揺れる。これを共振と呼ぶ。手を左右に一度だけ動かしたときに比べ、2度、3度と動かしていくと、振り子の揺れはどんどん大きくなる。ちょうど、ブランコを何度もこいで揺れを大きくするのと同じ理屈である。すなわち、揺れの継続時間が長いと共振が育ちやすい。このことから、巨大地震では共振が育ちやすいことが分かる。

 次に大きなナットの振り子に小さなナットの振り子をぶら下げてみる。上の紐が下のナットの紐より長いと、小さなナットは大きなナットと一緒に動き、上の紐が短いと、大きなナットの振り子だけが揺れて小さなナットは動かない。ところが、2つの紐の長さが同じだと、小さなナットの揺れが凄まじく大きくなる。これが地盤の揺れの周期と建物の揺れの周期が一致することによる共振現象である。机の上に鏡を置いて上下逆にしてみると、大きな振り子が地盤の揺れ、小さな振り子が建物の揺れに見える。

 地盤と建物の共振が大きな話題になったのは、2011年東日本大震災での大阪府咲洲庁舎である。震源から700キロも離れていた地上55階・高さ256mの超高層ビルが、往復3m弱も揺れた。地震観測記録の分析から、地盤の卓越周期と、建物の固有周期がほぼ一致したことで、周期6.5秒程度の揺れが、地盤深くの基盤に比べ建物屋上では1000倍程度に増幅されたことが分かった。

 地震での建物の揺れは、地盤や建物の固さだけでなく、揺れやすい周期の同調という問題も関わることを忘れないでおきたい。すなわち、建物の耐震性だけでなく、地震力の大小、すなわち、地盤や建物の揺れやすさや、建物の重さ、建物の周期にも注意が必要である。

揺れにくい堅固な建物

 魚肉ソーセージと夏に人気の棒アイスは形が似ているが、固さが異なる。ソーセージに比べ、棒アイスは固くて揺れない。建物も、その構造によって固さが異なる。学生時代に下敷きをうちわの代わりに使った人は多いと思う。下敷きは面に対して直角に押すと簡単に曲がるが、 ・・・続きを読む
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筆者

福和 伸夫

福和 伸夫(ふくわ・のぶお) 名古屋大学減災連携研究センター長・教授

1957年に名古屋に生まれ、81年に名古屋大学大学院を修了した後、10年間、民間建設会社にて耐震研究に従事、その後、名古屋大学に異動し、工学部助教授、同先端技術共同研究センター教授、環境学研究科教授を経て、2012年より現職。建築耐震工学や地震工学に関する教育・研究の傍ら、減災活動を実践している。とくに、南海トラフ地震などの巨大災害の軽減のため、地域の産・官・学・民がホンキになり、その総力を結集することで災害を克服するよう、減災連携研究センターの設立、減災館の建設、あいち・なごや強靭化共創センターの創設などに力を注いでいる。

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