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肥大化する部活動、問題の多角的研究へ学会を設立

研究と実践の往還を重視、研究者・実践者の相互研鑽を図る場に

長沼豊 学習院大学教授、日本部活動学会設立発起人代表

拡大中学の卓球部員へ試合前に声を掛ける部活動指導員の男性=北九州市
 部活動が話題になっている。生徒の強制入部の問題や顧問教員の過重負担の問題が昨年(2016年)からメディアで多数取り上げられるようになった。今年(2017年)に入ってからは教員の働き方改革とも連動した話題として取り上げられてきているのは周知の通りである。

 そこで、本論では改めて部活動の問題を整理し、2017年12月27日に設立されることになった日本部活動学会が目指すことについても述べることにする。

1.部活動の問題点

(1) 部活動の位置づけの曖昧さと矛盾

 2017年3月に告示された新しい中学校学習指導要領によると、部活動は生徒の自主的、自発的な参加によるものであり、生徒全員を強制入部させる必要はないことがわかる。また、部活動は学校教育の一環ではあるが教育課程との関連を図る活動と書かれている。この教育課程外の活動でありながら学校教育の一環として行うという曖昧さがいくつかの課題を生んでいる。

 第一に、部活動の指導は教員の勤務時間後も続くことが常態化しているが、部活動は政令に定められた「超勤4項目」ではないから校長が命じることのできる時間外勤務には該当しない。自発的にやっていると見なされるのである。しかし何かあれば責任を問われるのが常である。それでいて教員には給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)により時間外勤務の手当は支給されないから、完全にサービス残業と言える。

 第二に、顧問と言う名前でありながら技術的な指導も求められる(コーチまたは監督業務も担う)。しかも自身が経験したことのない種目を担当するという専門性を度外視したことが行われている(2014年日本体育協会の発表によれば、運動部の場合、自ら経験したことのある部を担当している教員は47.9%である)。

 第三に、自主的・自発的なものであるから、時間は際限なく出来ることになる。その実態は次に述べるが、教育課程外の教育活動であるから文科省も時間数の規制をかけることが難しいのだろう。結局、どんどん肥大化してきたというのが部活動の現状である。

(2) 部活動をめぐる教員の実態

 次に4つのデータから部活動をめぐる教員の勤務実態を見てみよう。

 第一に、2014年発表のOECD国際教員指導環境調査(TALIS)によると、日本の教員の1週間当たりの勤務時間は調査参加国のうち最長(日本53.9時間、参加国平均38.3時間)で、このうち教員が授業の指導に使ったと回答した時間は参加国平均と同程度である一方、課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間が特に長い(日本7.7時間、参加国平均2.1時間)という結果が出た。

 第二に、2016年12月に連合総研が発表した「「日本における教職員の働き方・労働時間の実態に関する研究委員会」報告書」によると、中学校教員の1日の平均在校時間は12時間10分であること、週60時間以上働いている教員の割合は87%であることがわかった。週60時間の勤務は、月に換算すると残業が80時間以上となるから、9割近い教員が、いわゆる過労死ラインを超えて働いているということになる。

 第三に、2017年4月に文部科学省が公表した「教員勤務実態調査(平成28年度)の集計(速報値)について」を見ると、「部活動の活動日数が多いほど学内勤務時間が長い」と示されており、中学校教員の勤務時間を引き上げているのは部活動であることがわかった。

 第四に、2016年12月15日スポーツ庁が公表した調査結果では、部活動に関して学校のルールとして週1日の休養日を設けている学校は54.2%、週2日は14.1%。休養日を定めていない学校は22.4%、土日に休養日を設けていない学校は42.6%だった。部活動の顧問については、原則全教員が務めることにしている学校が87.5%、希望者が務めることにしている学校は5.3%だった。旧文部省は休養日について1997年に「中学校は週2日以上」「高校は週1日以上」というガイドラインを示したが、全く浸透しなかったことになる。

 以上のように、教員の過重負担は常態化しており、その要因の一つが部活動の指導であることが明らかになっている。特に、教員の本来業務ではないはずの顧問を全員が担うことにしている学校が約9割であることもわかった。

(3) 部活動をめぐる生徒の実態

 上記のスポーツ庁の調査結果では1週間の運動部の活動時間が全国平均で男子が約935分、女子が約949分であることが示された。これを教科の授業など教育課程内の学習の1週間の時間数と比較すると、1週間の全授業の時間数1450分の約3分の2に相当する時間を部活動に費やしていることになる。別の言い方をすると中学生は学校生活の60%が授業、40%が部活動ということになる。平均値での算出であるから、部活動が50%を超える生徒もいるのではないか。ちなみに筆者が3年間の合計授業時間数と比較したところ、国語・社会・数学・理科・外国語の5教科の授業の合計時間数よりも部活動の合計活動時間の方が多いということがわかった。

 文部科学省が2016年6月に示した、次世代の学校指導体制にふさわしい教職員の在り方と業務改善のためのタスクフォースの報告「学校現場における業務の適正化に向けて」では「教員の部活動における負担を大胆に軽減する」とし、以下のような記述がある。

 「学校での部活動は、教育課程外の活動として、あくまで生徒の自主的、自発的な参加により行われるものであり、その参加については、生徒一人一人の考えを大切にすることが必要である。また、豊かな人間性や社会性を育むためにも、生徒が、部員以外の多様な人々と触れ合い、様々な体験を重ねていくことも重要である。かかる観点から、部活動に拘束されすぎることがないようにすることが求められる。」

 このような記述があるにもかかわらず、生徒全員を入部させている学校はかなりある。例えば、 ・・・続きを読む
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筆者

長沼豊

長沼豊(ながぬま・ゆたか) 学習院大学教授、日本部活動学会設立発起人代表

中学校教諭を経て1999年から学習院大学教職課程助教授。その後准教授・教授を経て2013年から教育学科教授。教育学科を立ち上げ教員養成に携わる。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。教科外教育(部活動、特別活動、ボランティア学習、シティズンシップ教育)を中心に研究を進める。文部科学省「学習指導要領作成協力者会議(中学校特別活動)」委員(2008年)、文部科学省「学習指導要領の改善等に係る検討に必要な専門的作業協力者(小学校特別活動)」委員(2016年)などを歴任。日本部活動学会設立発起人代表、日本特別活動学会会長、日本シティズンシップ教育フォーラム監事などを務める。著書は『部活動の不思議を語り合おう』(ひつじ書房)、『改訂第2版 特別活動概論』(久美出版、共編著)など多数。