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[13]ジャンパー問題1年。小田原市の福祉は今

着実に「再生」の道を歩んでいる生活保護行政

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

拡大小田原市役所
 昨年1月17日、神奈川県小田原市の健康福祉部長が開いた記者会見は、全国の福祉関係者に大きな衝撃を与えた。

 小田原市の生活保護担当職員が2007年から、「保護なめんな」(ローマ字)、「SHAT(生活保護・悪撲滅チームの略)」、「我々は正義である」(英語)等とプリントされたお揃いのジャンパーを自腹で作成し、生活保護世帯の家庭訪問時などに着用していたことを認め、謝罪を行ったのである。問題のジャンパーは、ケースワーカーへの暴力事件がきっかけとなって、当時の係長が中心となって作成され、10年間で計64人の職員が購入したという。

 また、その後の市の調査で、ジャンパー以外にも「SHAT」等と書かれたTシャツ、マグカップ、ペン等の8品目の「関連グッズ」が製作され、職員間で売買されていたことが判明した。

 このニュースは、生活保護行政への信頼を失墜させるものとして、問題のジャンパーの画像とともにテレビや新聞でも大きく取り上げられた。私もこの連載の2回目でこの問題を取り上げて、事件の背景にある構造的な問題を検証した。

 それから1年。大きな批判を浴びた小田原市の生活保護行政は、その後、どうなったのだろうか。

早かった小田原市の対応

 私は昨年1月、生活保護問題対策全国会議のメンバーとして小田原市役所を訪問し、ジャンパー問題の究明と生活保護行政の改善を求める緊急申し入れと記者会見を行った。

 小田原市の対応は早く、加藤憲一市長のイニシアチブにより、2月には「生活保護行政のあり方検討会」(座長:井手英策慶應義塾大学経済学部教授)が設立された。この検討会には、学識経験者や生活保護問題に詳しい法律家だけでなく、生活保護を利用した経験のある和久井みちる氏が委員に選出されたことが注目を浴びた。障害者福祉の分野では、制度に関する議論に当事者が参加することは珍しくなくなっているが、生活保護の分野では制度を実際に利用した人が公的な場での議論に参加し、その意見が政策に反映されるのは初めてのことだったからである。

 和久井氏は小田原市の生活保護を利用する全ての世帯に生活保護行政に関するアンケートを実施することを提案し、小田原市は今年度中に調査を実施する予定である。

 「生活保護行政のあり方検討会」は、4月6日に「開かれた生活保護行政」を実現するための改善策をとりまとめた報告書を発表。4月30日には市の主催により「小田原市生活保護行政のあり方シンポジウム」が開催され、約350人が集まった。

 シンポジウム終了後は、この問題に関する報道も減っていったが、地元の法律家や生活困窮者支援団体は報告書に盛り込まれた改善策の着実な実施を求めて、小田原市に働きかけを続けている。昨年12月27日には、神奈川県の弁護士が中心となり、改善策の進捗状況を確認するため、市職員との話し合いが行われた。私もこの話し合いに参加してきたので、以下でその内容を報告したい。

5つのポイントにまとめられた改善策

 報告書の改善策は5つのポイントにまとめられていた。小田原市はポイントごとに進捗状況をまとめた資料を用意しており、それに沿って説明がなされていった。

 5つのポイントとは、以下のとおりである。
1. 援助の専門性を高める研修や連携による学びの場の質的転換
2.利用者の視点に立った生活保護業務の見直し
3.利用者に寄り添い、ケースワーカーが職務に専念できる体制づくり
4.「自立」の概念を広げ、組織目標として自立支援の取組を掲げる
5.市民にひらかれた生活保護を実現する

拡大当事者の意見を聞くために設置された「ご意見箱」=小田原市役所
 このうち、1の研修・連携については、社会福祉学を専門とする研究者による全ケースワーカー対象の研修を定期的に実施しているとの報告があった。また、法的支援に関して神奈川県弁護士会との連携も進んでおり、関係各機関と連携した事例検討会も定期的に開催しているとのことであった。

 2の業務の見直しについては、プライバシーに配慮したカウンターの間仕切りが設置され、当事者の声を聞くための「ご意見箱」も設置された。こうした「ご意見箱」の設置も、他自治体では例のないことであるが、実際の投書はまだ一件にとどまっており、今後、「ご意見箱」の置き場所を考え直すとのことであった。

「保護のしおり」を全面改訂

 業務見直しで最も大きなことは「保護のしおり」が全面的に改訂されたことであろう。「保護のしおり」とは、地方自治体が生活保護制度の詳しい仕組みについて説明をするための資料で、生活保護の窓口に相談に来た人に配布されている小冊子である。しかし、過去の小田原市の「保護のしおり」は、資産の活用について制度を誤解させるような記述があったり、記述そのものがわかりにくいなど、利用者の目線に沿った内容になっていなかった。

 「保護のしおり」の改善は、「検討会」でも議題にあがり、 ・・・続きを読む
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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

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