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生活保護費の切り下げでは、問題は解決しない

増大する保護費について、社会全体で長期的な視点から議論すべきだ

赤石千衣子 しんぐるまざあず・ふぉー らむ理事長

繰り返される生活保護費の切り下げ

生活保護費切り下げの影響で、食費を削減。17円のきしめんの袋を切る男性=名古屋市
 2017年12月。師走のあわただしい時期に、またもや生活保護の生活扶助基準の切り下げ、母子加算の削減のニュースが入った。

 生活保護基準部会の報告をもとに、厚生労働省が来年度の生活保護費について、生活扶助基準の5%の切り下げ、母子加算の20%程度の削減を打ち出したのだ。(実はそのほかにも3歳以下の子どもの児童養育加算の切り下げや、学習支援費の費目が変わるなど、見過ごしにできない点がある)。

 理由は、「生活保護を受けていない低所得者層の消費水準に合わせて見直し」というものだ。

 これまで何度も生活扶助は切り下げられてきた。また、母子加算も2009年に廃止、さらに民主党政権のもとで復活して今に至っている。

 なぜ生活保護費の切り下げは政策のターゲットになり続けているのだろうか。

 厚生労働省によると、生活保護費負担金は、3.8兆円(平成29年度当初予算)で、過去10年間に1兆2000億円増加しており、受給世帯も214万1881人(平成29年2月)であり、近年やや横ばいであるものの増加してきた。その内訳をみると、被保護人員のうち、全体の45.5%は65歳以上の者であり、高齢者の伸びが大きい。高齢社会になり、年金や医療がカバーできない暮らしを生活保護制度がカバーしているのだとすれば、生活保護予算が増えていくのは必然的な結果だ。世帯類型別の構成割合でも、リーマンショック後、稼働年齢層と考えられる「その他世帯」の割合が大きく増加したが、近年は減少傾向となり、「高齢者世帯」が増加している。母子世帯、傷病障害者世帯なども減少傾向にある。

 また、実績額で半分は医療費扶助が占めている。(「生活保護制度の現状について」厚労省 2017 社会保障審議会生活困窮者自立支援 及び生活保護部会の資料より)

高齢社会の進展で、必然的に生活保護予算は増加

 生活保護予算の増加は、高齢社会の進展とともに、必然的に起こっていると思われる。そうであれば今後も生活保護費は増え続けるだろう。生活保護制度の将来像について、高齢化に伴い対名目GDP比0.75%から2050年度には0.94%に上昇する予測を立て、さらに国民年金保険料の納付率低下が年金受給権を持たない高齢者を増加させ、被保護者の増加に結びつくという財務省関係のシミュレーションもある。( 「生活保護の現状と 生活保護費の将来見通し」 米田泰隆 2015)

 今回の切り下げをみると、低所得世帯との消費動向について調査し検討した、としつつ、生活保護予算の増加をわずかでも抑制するために、生活扶助費を削減する、母子の加算額を減額していると思われる。

権利性を失いつつある生活保護制度

 こうした削り取るような生活保護費の削減で、予算が押さえられる幅は160億円であるという。3.8兆円予算の0.4%にあたる。このために、この国の文化的で最低限度の生活保障をする最後の制度である生活保護制度が、その権利性を失っていっているのではないか。

 私たちしんぐるまざあず・ふぉーらむは、母子世帯の当事者を中心とする支援団体である。会員は1000人いる。

 生活保護を受給している会員の人たちの多くは、DV被害経験があり、うつ病など精神科に通院している人が多く、働くことがむずかしい。パートで就労している人もいるが、それ以上の長時間働くことはなかなかむずかしい。

 この実態は、厚労省の「一般母子世帯及び被保護母子世帯の生活実態について」の調査と同様である。

 被保護母子世帯の約4割は仕事をしている。仕事をしていない人の多くは「健康に自信がない」と答えており、「健康状態がよくない」と答えた被保護母子世帯の母の割合は70%に上る。うつ病やその他心の病気で通院している母親は32.8%に及んでいる。DV被害経験については7割が経験しているのである。

 さて、何度も生活保護の切り下げのターゲットにされてきたために、うつ傾向のある彼女たちが抗議の声を上げるという意思をもつことは困難に見受けられる。自分が生活保護を受けていることを恥ずかしいと思い、なかなか公言できない人もいる。周囲に気づかれたくないためさまざまな苦労もしている。

 また、ひとり親家庭に支給される児童扶養手当も併給されるが、

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