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月9はなぜ同じ過ちを繰り返すのか(下)

武井咲、芳根京子……演技派若手女優はなぜコメディドラマを爆死させるのか

杉浦由美子 ノンフィクションライター

 フジテレビ、月曜9時放送の月9枠『海月姫』の視聴率不振を通して、ドラマの現在を考えている。前回は『海月姫』が、その前に放送された『民衆の敵』と同様のミスをしていると指摘した。主人公たちが行動し出す理由を描いてないから、視聴者が物語に入っていけないのだ。今回は月9『海月姫』におけるもうひとつのミスを見てみたい。キャストの問題である。

月9の不振の理由は、若手女優不足

  月9枠のドラマが苦しい理由のひとつとして、若手女優の人材不足があるだろう。スタッフに関しては、腕のいいベテランたちを揃えればいい。しかし、ヒロインの役が若ければ、若い女優を起用しないと成り立たない。残念なことに、現在、女優になりたがる女の子たちの質もモチベーションも下がっている。スマートフォンが普及した今、ちょっとコンビニに出かけても写真を撮られて、SNSにアップされかねない。そんな窮屈な生活と引き換えにするほど、テレビの世界は輝いていないからだ。

  それを反映するかのように、昨今のドラマでは「棒読み」演技の若手女優が話題になる。女優たちも気の毒なのだ。昔ならば、若手女優は大根でも許されたり、監督が手取り足取り演技指導してくれたりしたのだ。しかし、現在は、ドラマで求められる演技力は高まっているというのに、丁寧な演技指導ができる監督も減っている。

  この若手女優の苦難の時代が、月9不振の理由のひとつといえよう。

  そんな中で、『海月姫』の芳根京子は二十歳とは思えない達者な演技を見せている。清楚でおとなしげな容姿も、役に合っている。しかし、「ミスキャスト」という意見もある。

コメディのヒロインに必要なのは演技力よりも華やかさ

  先の記事で、去年放送された月9『貴族探偵』について書いた。人気作家、麻耶雄嵩による本格ミステリが原作で、ミステリを得意とするシナリオライター・黒岩勉が脚本を担当するということで、期待度は大きかったが、平均視聴率は8.8%と惨敗だった。

  視聴率伸び悩みの原因のひとつとして、先の記事では、ヒロイン武井咲がコメディに合わないことを指摘した。武井は美貌で演技も達者だが、明るく華やかなタイプではない。だから、松本清張原作の『黒革の手帖』(テレビ朝日系)のヒロインにはハマった。シリアスなドラマでの、訳ありの若き銀座のママ役は武井にぴったりだった。しかし、『貴族探偵』では、武井の眉間に皺を寄せるシリアスな表情はコメディの世界観を壊していた。

  新垣結衣が『リーガル・ハイ』『逃げるは恥だが役に立つ』(共にTBS系)で大成功したのも、やはり、彼女には明るさや華やかさがあるからだろう。深田恭子がドラマ『富豪刑事』(テレビ朝日系)や映画『下妻物語』で成功したのも、やはり健康的な明るさやゴージャスさがあるからだ。

演技の芳根京子、ルックスの広瀬すず

フジテレビのドラマ「海月姫」の主演、芳根京子=2016年9月、東京都渋谷区拡大フジテレビのドラマ「海月姫」の主演、芳根京子=2016年9月、東京都渋谷区
  芳根京子はNHK朝の連続ドラマ小説『べっぴんさん』のヒロインをつとめ、知名度をあげた。清楚な容姿と20歳とは思えない演技力が武器だ。あるネットニュースでは「演技の芳根京子、ルックスの広瀬すず」とも評されていた。

  おとなしそうな風貌の芳根はオタク女子役がよく似合う。しかも演技がうまいので、リアリティが出すぎるのだ。女装男子やクラゲが出てくるシュールでお洒落なコメディに、現実感はいらない。

急なスケジュールでの制作で最も難しいのはキャスティング

  では、なぜ、このキャスティングになったのか。

  先の記事でも書いたが、『海月姫』原作者の東村アキコはポッドキャスト番組の中で、ドラマ化が急に決まったことを語っている。

  それを裏付けるような報道が多数あった。今クールの月9枠は長瀬智也主演の医療ドラマ『フラジャイル』の続編の予定だったが、準主役の武井咲が妊娠したために、それが流れ、代わりに『海月姫』が放映されることになった。 ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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