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[14] 繰り返された悲劇の構図

札幌共同住宅火災、災害弱者の「集住」を避ける道を探るべき

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

拡大火災で11人が亡くなった共同住宅=2月1日、札幌市東区
 またもや、生活困窮者が火災によって犠牲になる悲劇が繰り返された。

 生活困窮者の自立支援を掲げる札幌市の共同住宅「そしあるハイム」で1月31日夜、火災が発生。入居者16名のうち11名が死亡する惨事となった。

 亡くなった11名のうち9名が65歳以上の高齢者で、最高齢は85歳の男性だった。最も若い方は48歳の男性だった。

総合的な支援に取り組んでいた運営会社「なんもさサポート」

 報道によると、「そしあるハイム」を運営する合同会社「なんもさサポート」の渡部昭雄副代表は、2月1日、札幌市内で記者会見を行い、「亡くなった方のご冥福をお祈りします。助けてあげられず、ごめんなさい」と謝罪。「役所の許可を得て、法的に許される範囲内で運営していた」とも述べる一方、防火対策についての認識が不十分だったことを認めた。

 2005年に設立された合同会社「なんもさサポート」は、札幌市内において同様の共同住宅を約20カ所、運営しており、路上生活者や刑事施設の出所者など行き場のない生活困窮者の受け入れを行ってきた。

 反貧困ネット北海道事務局の平田なぎささんによると、以前は市内のホームレス支援団体が夜回りを行い、保護を必要としている路上生活者を見つけた場合、「なんもさサポート」の住宅につなげるケースが少なくなかったという。

 「なんもさサポート」が運営する住宅の家賃や管理費は低廉で、事務所の入っている建物では低価格の食事を提供する食堂も運営していた。その食堂は生活保護利用者が働く場にもなっているなど、住宅を入り口に総合的な支援に取り組んでいたようである。

 2000年代初頭は、全国的にホームレスの人たちを相部屋の宿泊施設に囲い込んで、生活保護費から高額の宿泊費・食費を天引きする「貧困ビジネス」の施設が急速に拡大した時期である。だが、札幌ではこうした「貧困ビジネス」の施設が広がることはなかった。その背景には、「なんもさサポート」や他の支援団体が独自の住宅支援事業を行い、生活困窮者に個室の住居を提供してきたことも影響していたのではないかと私は推察する。

 平田さんによると、近年、「なんもさサポート」から独立したNPO法人自立支援事業所ベトサダが24時間体制で生活困窮者を受け入れる緊急シェルター事業を立ち上げたため、「なんもさサポート」とホームレス支援団体の連携は薄くなったと言う。だが、札幌市内の福祉事務所や警察署が行き場のない人に「なんもさサポート」を紹介するということは継続して行われていたようだ。

 冒頭、「またもや」と書いたのは、昨年5月の北九州市でのアパート火災(6人死亡)や同年8月の秋田県横手市でのアパート火災(5人死亡)など、近年、行き場のない生活困窮者の「受け皿」として機能していた住居での火災が相次いでいるからだ。

 北九州と横手の火災について、私は本連載の9回目『火災の悲劇で追及の声を上げる国上げない国』において、行政が住まいを失った生活困窮者の「受け皿」の整備を民間任せにしてきたことが背景にあると指摘した。今回の札幌での火災でも同じ構図があると考えている。

 内容が以前の記事と一部重複するが、繰り返されてしまった悲劇の背景にある「入居者側の事情」、「運営者側の事情」について改めて説明をしたい。

入居者は高齢者に偏る

 まず、入居者はどのような人たちなのだろうか。

 最初にイメージされるのは、生活に困窮して住まいを失い、路上生活やネットカフェ生活に陥ってしまった生活困窮者や、刑事施設から退所して行き場のない人たちである。

 また昨年、横手市のアパートでは、近くにある精神科病院から退院してきた患者を積極的に受け入れていたことがわかっている。日本は精神科の入院日数が諸外国に比べて極めて高いことが問題になっているが、長期入院をしている患者の場合、家族との関係が疎遠になってしまい、退院後も家族のもとに戻れない人が多い。

 こうした人たちに加えて、近年はもともとアパートに暮らしていた人が立ち退きによって住まいを喪失する例も散見されるようになった。

 まったくの偶然だが、札幌での火災が発生した翌日の2月1日、NHKの『クローズアップ現代+』で「思いがけない退去通知 あなたも住宅を追われる!?」という番組が放映された。この番組は、老朽化したアパートの取り壊しなどで賃貸住宅に暮らす高齢者が立ち退きに遭うケースが増えており、高齢者が次の住宅を探そうとしても、孤独死を恐れる大家さんがなかなか部屋を貸してくれないという実態を紹介していた。

 この番組にスタジオゲストとして生出演をした私は、前日に起こった札幌の火災に関連して、「こうした住宅や宿泊施設は、ホームレスの人たちを受け入れ、アパートに移ってもらうまでの間の一時的な居所として民間団体によって整備されてきたが、近年、そうした場所に、もともとアパートで暮らしていた高齢者が立ち退きに遭って入所してくる、という『逆流現象』が起きている」と指摘した。

 老朽化したアパートの取り壊しによって住まいを失う人は高齢者が多い。また、路上生活者の平均年齢は上昇傾向にあり、 ・・・続きを読む
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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

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